尺側皮静脈

尺側皮静脈は上肢の皮静脈の主な流れであり、発生学的には上肢の尺側縁の辺縁静脈から発生します。手背静脈網の尺側部から始まり、前腕の後面の尺側縁を上行し、前腕の前面に出てから、肘窩の尺側を経由します。それから、上腕二頭筋の内側に沿って内側二頭筋溝を通り、上腕のほぼ中央の高さで上腕筋膜を貫き、深部へと進んで上腕静脈に合流します。肘窩の近くでは、内側前腕皮神経と一緒に走行します。

『日本人のからだ(大久保真人 2000)』によると

尺側皮静脈は変異性が少なく、上腕の皮静脈の中で最も安定した形態を示しています。尺側皮静脈は手背静脈弓の尺側から始まり、前腕の掌側面に出てから尺骨側を近位に向かいます。上腕に達すると、内側二頭筋溝に入り、上腕の遠位1/3で内側前腕皮神経とともに上腕筋膜の尺側皮静脈裂孔を通過して深部に向かい、上腕静脈に開口します。

尺側皮静脈の形態が安定しているため、変異例は非常に少ないです。以下は、文献に記載された報告例をまとめたものです。

a. 経過中に島を形成するもの(岡本, 1922年: 2/200例、忽那, 1925年: 6/257例、稗田, 1927年: 2/100例、松本, 1933年: 31/812例、小川ら, 1956年: 21/212例、近藤, 1974年: 3/82例)。

b. 重複するもの(稗田, 1927年: 1/100例)。

c. 発育が微弱なもの(岡本, 1922年: 2/200例、忽那, 1925年: 1/257例、松本, 1933年: 21/812例)。

d. 欠如するもの(松本, 1933年: 1/812例)。

e. 腋窩静脈に開口するもの(稗田, 1927年: 12/100例、松本, 1933年: 11/812例)。

f. 開口部位が不明なもの(稗田, 1927年: 18/100例)。

総合的分類

上肢の皮静脈系は全体的に変異性が豊かであるため、各主要静脈の大まかな走行経過を基に基本的な形態の分類が試みられた。生体2,000肢の観察結果を以下に示す(図98; Goto, 1931)。

I型: 前腕正中皮静脈がY字形に分岐し、橈側皮静脈と尺側皮静脈に開口するパターン(7.20%)。

II型: 橈側皮静脈が通常の経過をたどり、肘正中皮静脈が存在するパターン(77.76%)。

III型: 橈側皮静脈の上腕部の発達が貧弱または欠如し、肘正中皮静脈が存在するパターン(5.36%)。

IV型: 橈側皮静脈と尺側皮静脈の間に肘窩での交通(肘正中皮静脈)を欠くパターン(10.12%)。

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