副橈側皮静脈 Vena cephalica accessoria

副橈側皮静脈は、上肢の表在静脈系に属する重要な血管です。解剖学的および臨床的に以下の特徴を持ちます（Gray and Standring, 2016）：

解剖学的特徴

• 走行経路：前腕の後外側面を走行し、橈側皮静脈の尺側に並行して上行します。特に前腕遠位部では皮下組織内を明瞭に走行します（Moore et al., 2018）。
• 起始と合流：手背静脈網（Rete venosum dorsale manus）に始まり、前腕を上行した後、肘窩（Cubital fossa）付近で橈側皮静脈（Vena cephalica）に合流します（Netter, 2019）。
• 解剖学的変異：個人差が大きく、発達の程度は様々です。約60-75%の人に明確に認められるとされています（Bergman et al., 2016）。
• 位置関係：浅筋膜（Fascia superficialis）の直下を走行し、前腕外側皮神経（Lateral antebrachial cutaneous nerve）と近接して位置します（Drake et al., 2020）。

臨床的意義

• 静脈穿刺：橈側皮静脈と同様に、静脈路確保や採血の際のアクセスポイントとして使用されることがあります（Kim et al., 2017）。
• 静脈グラフト：冠動脈バイパス手術などの血管再建術において、橈側皮静脈が利用できない場合の代替グラフトとして検討されることがあります（Dashwood and Loesch, 2020）。
• 表在性静脈炎：長時間のカテーテル留置や頻回の穿刺により炎症を起こすことがあります（Tagalakis et al., 2012）。

この静脈は、上肢全体の静脈還流において、尺側皮静脈（Vena basilica）と橈側皮静脈（Vena cephalica）からなる主要な表在静脈系を補完する役割を果たしています（Shen et al., 2016）。発達が良好な場合は、上肢からの静脈還流の重要な経路となります。

参考文献

• Bergman, R.A., Afifi, A.K. and Miyauchi, R. (2016) Illustrated Encyclopedia of Human Anatomic Variation — 人体解剖学的変異の包括的参考書で、副橈側皮静脈の変異についての詳細な記述がある。
• Dashwood, M.R. and Loesch, A. (2020) The saphenous vein as a bypass conduit: the potential role of vascular nerves in graft performance. Current Vascular Pharmacology, 18(1), pp.58-71. — 静脈グラフトの使用と性能に関する最新の研究。
• Drake, R.L., Vogl, A.W. and Mitchell, A.W.M. (2020) Gray's Anatomy for Students — 医学生向けの解剖学書で、上肢の表在静脈系の詳細な説明がある。
• Gray, H. and Standring, S. (2016) Gray's Anatomy: The Anatomical Basis of Clinical Practice — 臨床医学の観点から見た解剖学の標準的教科書。
• Kim, H.J., Park, S.H., Shin, H.Y. and Choi, Y.S. (2017) Sonoanatomy of the cephalic and basilic veins in the distal arm. Journal of Clinical Ultrasound, 45(3), pp.138-144. — 超音波検査による上肢遠位部の静脈解剖の研究。
• Moore, K.L., Dalley, A.F. and Agur, A.M.R. (2018) Clinically Oriented Anatomy — 臨床的視点から解剖学を解説した教科書で、上肢の血管系について詳細に記述されている。
• Netter, F.H. (2019) Atlas of Human Anatomy — 精密な解剖学図譜で、副橈側皮静脈の解剖学的位置関係が視覚的に理解できる。