脊髄静脈 Venae medullae spinalis; Venae spinales externae ventrales
脊髄静脈系は、脊髄実質と表面から血液を回収し、縦走静脈と冠状吻合でネットワークを形成し、根静脈・髄質静脈を経て椎骨静脈叢へ流出する。弁が乏しく吻合が豊富なため、うっ血性病態(例:脊髄硬膜動静脈瘻)や手技関連の静脈損傷・硬膜外血腫が起こりやすく、臨床的理解と画像診断、血管内治療が重要である。
概要
- **脊髄静脈(Venae medullae spinalis / Veins of the spinal cord)**は、脊髄実質および脊髄表面(軟膜)からの静脈血を回収し、**脊髄周囲の硬膜外静脈叢(内椎骨静脈叢 / internal vertebral venous plexus)**を介して、最終的に奇静脈系・上大静脈系、腰静脈〜下大静脈系へ流出する(Standring, 2021; Tubbs et al., 2015)。
- 動脈(前脊髄動脈・後脊髄動脈)と伴走する要素がある一方、静脈系は吻合が豊富で変異が多く、弁が乏しいため、病態(鬱滞・逆流・シャント)の理解に「ネットワーク」として捉えることが重要である(Ropper & Samuels, 2019; Lasjaunias et al., 2001)。
解剖(走行・区分)
1) 表在静脈系(外在静脈系 / external veins)
- 脊髄表面の静脈は、一般に以下の縦走系と冠状(環状)吻合で整理できる(Standring, 2021)。
- 前正中脊髄静脈(anterior median spinal vein):前正中裂に沿う。
- 後正中脊髄静脈(posterior median spinal vein):後正中溝に沿う。
- 前外側脊髄静脈(anterolateral spinal vein):前外側溝〜前根付近を縦走することが多い。
- 後外側脊髄静脈(posterolateral spinal vein):後外側溝〜後根付近を縦走することが多い。
- これらの縦走静脈は、脊髄周囲を取り巻く**冠状静脈(coronal venous plexus / coronary veins)**として横方向(環状)に吻合し、分節性の流出路へとつながる(Standring, 2021; Tubbs et al., 2015)。
2) 深部静脈系(内在静脈系 / internal veins)
- 脊髄実質からの静脈還流は、灰白質・白質の静脈が集まり、中心部では**中心静脈(central veins)**が形成され、最終的に表在(軟膜)静脈へと合流する(Standring, 2021)。
- 深部静脈系は、教科書的には「中心部(central)・周辺部(peripheral)・細根(radicular)へ向かう要素」に分けて説明されることが多いが、実務上は「実質→軟膜表在網→分節流出」という連続体として理解すると混乱しにくい(Ropper & Samuels, 2019)。
3) 分節性流出(根静脈・髄質静脈 / radicular・medullary veins)
- 脊髄から硬膜外静脈叢へ交通する主たる経路は、神経根に沿う**前根静脈・後根静脈(radicular veins)およびより太い髄質静脈(medullary veins)**である(Standring, 2021; Lasjaunias et al., 2001)。
- これらは椎間孔付近で硬膜を貫き、**椎骨静脈叢(vertebral venous plexus)**へ流入する。椎骨静脈叢は弁が乏しく、胸腹部・骨盤内静脈系(奇静脈系、腰静脈系)とも連結するため、体位・胸腹圧の影響を受けやすい(Ropper & Samuels, 2019)。
隣接構造(臨床でのランドマーク)
- 硬膜外腔:脂肪組織と内椎骨静脈叢を含み、脊髄・くも膜下腔の外側に位置する(Standring, 2021)。
- 椎間孔:根静脈が硬膜を貫通して外側へ抜ける「狭い通路」であり、硬膜外手技(硬膜外麻酔、神経根ブロック、椎間孔内視鏡)では静脈損傷が出血・血腫の原因となる(Tadros et al., 2020)。
臨床統合(病態→画像→介入)
1) 脊髄静脈うっ血:脊髄硬膜動静脈瘻(spinal dural arteriovenous fistula; SDAVF)