鼻前頭静脈 Vena nasofrontalis

眼窩と中頭蓋窩の静脈

J0606 (硬膜静脈洞:頭蓋底からの図)

J0610 (顔の表在静脈:右側からの図)

J0611 (顔の深部静脈:右側からの図)
解剖学的特徴
- 鼻前頭静脈は、鼻根部から前頭部にかけて走行する顔面の表在静脈である。鼻背部の皮膚直下を垂直方向に上行し、前頭部の表在静脈網と連絡する (Standring, 2021)。
- この静脈は眼角静脈(angular vein)と滑車上静脈(supratrochlear vein)の合流部を経て、最終的に上眼静脈(superior ophthalmic vein)へと流入する (Moore et al., 2023)。
- 前頭部、鼻背部、内眼角部からの静脈血を集め、眼窩内静脈系へと導く重要な静脈路を形成している。
- 弁を持たない静脈であり、血流の方向が逆転しうることが臨床的に重要である (Sinnatamby, 2022)。
位置関係と走行
- 鼻根部(nasion)から起始し、前頭部に向かって正中線付近を垂直に上行する (Netter, 2024)。
- 眼窩上縁(supraorbital margin)の内側端付近で滑車上静脈と合流し、眼角静脈を形成する (Standring, 2021)。
- 周囲の顔面静脈、眼窩周囲静脈、前頭静脈などと豊富な吻合を形成し、複雑な静脈網を構成している (Moore et al., 2023)。
- 皮膚表面から浅い位置を走行するため、視診や触診で確認できることが多い。
- 前頭筋と眼輪筋の間を走行し、これらの筋肉の静脈血を集める (Netter, 2024)。
臨床的意義
- 顔面の「危険三角(danger triangle)」の一部を構成し、この領域の感染症が頭蓋内へ波及する重要な経路となりうる。特に鼻部や上唇の癤(furuncle)や蜂窩織炎が海綿静脈洞血栓症(cavernous sinus thrombosis)を引き起こす危険性がある (Sinnatamby, 2022; Standring, 2021)。
- 弁を欠く構造のため、顔面から頭蓋内への逆行性の血流や感染の伝播が可能となり、臨床的に重要な解剖学的特徴となっている (Moore et al., 2023)。
- 静脈性血栓症の好発部位の一つとして知られており、顔面外傷後や感染症の合併症として血栓形成が起こりうる (Standring, 2021)。
- 美容医療において、ボトックス注射、ヒアルロン酸注入、糸リフトなどの施術時に血管走行の重要な指標となる。血管内への誤注入は重篤な合併症を引き起こす可能性がある (Rohrich et al., 2015)。
- 前頭部や鼻根部の手術時には、この静脈の損傷による出血や血腫形成に注意が必要である (Moore et al., 2023)。
- 眼窩周囲の腫瘍や炎症により、この静脈の拡張や血流異常が生じることがある (Sinnatamby, 2022)。