眼窩部の静脈 Venae orbitae

RK686(頭蓋底の静脈洞と眼窩の静脈)

RK688(眼窩の静脈およびその周辺の静脈の連結(半模式図))
眼窩内の諸器官からの血液は、2本の主要な静脈幹に集まる。太い方の幹は眼窩上部を走り、その走行は主に眼動脈の分枝に沿う。一方、細い方の幹は眼窩底近くを走る。これら2本の幹は眼窩後端で合流して1本の太い静脈となり、上眼窩裂を通過して海綿静脈洞と結合する(RK688(眼窩の静脈およびその周辺の静脈の連結(半模式図)))。
解剖学的詳細(走行・吻合・弁の特徴)
- 眼窩静脈系は弁が乏しい(または欠如することが多い)ため、顔面から頭蓋内へ感染が逆行し得る交通路となる(Standring, 2021)。
- 眼窩静脈は概ね上眼静脈と下眼静脈を主幹とし、眼窩内で多数の枝(上・下眼瞼静脈、渦静脈、網膜中心静脈、篩骨静脈など)と吻合しながら、後方で上眼窩裂を介して頭蓋内静脈洞系へ連続する(Standring, 2021)。
- 上眼静脈は眼窩内側前方で鼻前頭静脈(angular vein 系)と連絡し、眼窩内を後方へ走行して上眼窩裂から海綿静脈洞へ至ることが多い(Standring, 2021)。
- 下眼静脈は眼窩底付近で形成され、上眼静脈へ合流する場合と、単独で上眼窩裂から海綿静脈洞へ向かう場合がある。また翼突筋静脈叢や深顔面静脈と交通し、顔面深部静脈系との連結点となる(Standring, 2021)。
- 眼窩静脈系は眼動脈系と並走する区間が多く、骨性眼窩の狭い空間で視神経・外眼筋・脂肪体と近接して走るため、腫瘍や炎症による圧迫・うっ血が視機能や眼球運動に影響し得る(Standring, 2021)。
主要な交通路(頭蓋外↔頭蓋内)
- 顔面静脈系(angular vein など)↔上眼静脈↔海綿静脈洞:前顔面の感染が頭蓋内へ波及し得る経路(Standring, 2021)。
- 翼突筋静脈叢↔下眼静脈(/上眼静脈)↔海綿静脈洞:咀嚼筋間隙や歯性感染が眼窩・頭蓋内へ波及する可能性がある(Standring, 2021)。
- 眼窩静脈↔上・下錐体静脈洞系を介した側副路形成により、頭蓋内静脈還流障害時に眼窩周囲の静脈拡張が目立つことがある(Standring, 2021)。
臨床的ポイント
1)眼窩蜂窩織炎と眼窩内合併症
- 副鼻腔炎(特に篩骨洞)からの波及により眼窩内で静脈性うっ血が起こると、眼瞼腫脹、眼球突出、眼痛、眼球運動障害が出現し得る(Kanski and Bowling, 2016)。
- 眼窩内の静脈うっ血や炎症が進行すると視神経障害を来し、視力低下を伴うため、画像評価と迅速な治療判断が重要となる(Kanski and Bowling, 2016)。
2)海綿静脈洞血栓症(cavernous sinus thrombosis)
- 上眼静脈は海綿静脈洞へ直接連続するため、顔面・副鼻腔感染が海綿静脈洞血栓症へ波及し得る(Standring, 2021)。
- 典型的には眼窩周囲浮腫、結膜充血、眼球突出、複視(III, IV, VI 脳神経障害)を呈し、両側性へ進展することがある(Ropper and Samuels, 2019)。
3)頸動脈海綿静脈洞瘻(carotid–cavernous fistula)