
卵円孔静脈叢は頭蓋底の卵円孔を通る静脈網で、内頸動脈や中硬膜動脈と隣接し、海綿静脈洞から翼突筋静脈叢へ血液を流す重要な経路である。頭蓋底手術時の解剖学的指標や腫瘍の外進路、硬膜動静脈瘻の好発部位として臨床的に重要で、出血リスクが高いため慎重な操作が求められる。
卵円孔静脈叢(plexus venosus foraminis ovalis)は、中頭蓋窩の卵円孔周囲で、海綿静脈洞(cavernous sinus)側の静脈路と、頭蓋外の**翼突筋静脈叢(pterygoid venous plexus)を結ぶ交通の一部をなす静脈網である(Standring, 2021)。卵円孔を通過する下顎神経(V3)およびその周囲の脂肪・結合組織の近傍に静脈小枝が集まり、卵円孔周囲の硬膜静脈(dural venous channels)と連続して網状(plexiform)**の形態を取りやすい(Tubbs et al., 2016)。
本静脈叢は、頭蓋底の静脈還流における「硬膜静脈洞系—頭蓋外静脈叢系」のバイパスとして機能し得る。すなわち、海綿静脈洞(あるいはその周囲の硬膜静脈路)→卵円孔周囲静脈叢→翼突筋静脈叢→顎静脈・顔面静脈系へ、圧勾配に応じた多方向性交通が成立し得る(Osborn, 2018)。
卵円孔は中頭蓋窩底の蝶形骨大翼に位置し、孔周囲の硬膜は海綿静脈洞外側壁~中頭蓋窩硬膜へ連続する。卵円孔静脈叢はこの硬膜と骨孔周囲で発達しやすく、臨床的には以下の隣接を意識する(Standring, 2021):
頭蓋底の硬膜静脈路と翼突筋静脈叢の交通は個体差が大きく、連続した単一静脈としてよりも、卵円孔周囲での複数小静脈の集合として記載されることが多い(Tubbs et al., 2016)。この「網状」の性状は、術中の予期しにくい出血点(diffuse oozing)として問題化し得る。
翼突筋静脈叢は咽頭・副鼻腔・歯性病変とも交通し得るため、卵円孔周囲の静脈交通は、病態によっては頭蓋外—頭蓋内の炎症/血栓の進展経路として概念的に重要である(Osborn, 2018)。また、海綿静脈洞近傍の硬膜静脈路は硬膜動静脈瘻の発生母地となり得るため、卵円孔周囲での異常交通が疑われる場合、海綿静脈洞~中頭蓋窩底の血行動態を含めて評価する(Osborn, 2018)。