舌下神経管静脈叢 Plexus venosus canalis nervi hypoglossi

後頭部の静脈
舌下神経管静脈叢は後頭骨の舌下神経管内に位置し、舌下神経に随伴し豊富な静脈叢を形成して脳底静脈叢やS状静脈洞、内頚静脈系などと連絡し、頭蓋内圧調節や硬膜動静脈瘻・静脈血栓症などの病態に関与する重要な構造であり、頭蓋底手術や血管内治療時の出血リスクや経路として注意が必要である。
解剖学的特徴(位置・構成・連絡)
舌下神経管静脈叢(venous plexus of the hypoglossal canal; plexus venosus canalis nervi hypoglossi)は、後頭骨(os occipitale)の舌下神経管(canalis nervi hypoglossi)内〜管口周囲に形成される静脈性ネットワークである。舌下神経(CN XII)に随伴して走行し、管内で小静脈が網状に吻合して「静脈叢/静脈網(rete)」をつくる(Gray, 2020)。
近接解剖(ランドマーク)
- 舌下神経管は**後頭顆(condylus occipitalis)**の内側〜前外側寄りに位置し、頭蓋底内面では斜台下部〜前外側、外面では顆窩/頚静脈孔の近傍に開口する。
- 静脈叢は、管内で舌下神経の周囲を取り巻き、**硬膜外静脈叢(epidural venous plexus)**や顆部周囲の静脈連絡網の一部として振る舞う(Rhoton, 2000; Gray, 2020)。
連絡(流出入路)
静脈叢の連絡は個体差が大きいが、臨床的には次の 3 系統を押さえると理解しやすい。
- 頭蓋内硬膜静脈洞系
- 頭蓋内側では、脳底静脈叢(basilar venous plexus)や斜台周囲の静脈網を介して、**S状静脈洞(sinus sigmoideus)や下錐体静脈洞(sinus petrosus inferior)**近傍へ連絡しうる(Rhoton, 2000; Osborn, 2017)。
- 後頭顆静脈(condylar veins)・椎骨静脈叢系
- 舌下神経管部は顆静脈(前顆静脈を含む)と連続し、**椎骨静脈叢(vertebral venous plexus)**へ交通する。これにより、頭蓋内—頚部—脊柱管の静脈圧が相互に影響を受けうる(Gray, 2020)。
- 内頚静脈球〜内頚静脈系
- 管外側の連絡として、頚静脈孔・内頚静脈球近傍の静脈路へ流出しうる。手術や血管内治療では、内頚静脈球周辺の静脈性出血として遭遇することがある(Osborn, 2017)。
画像での見え方(CT/MRI/DSAの要点)
- 造影CT(CTA/CTV): 後頭顆内側に細い造影される静脈路として描出されることがあり、顆静脈・椎骨静脈叢の連絡と合わせて評価する。骨条件で舌下神経管の位置を同定し、軟部条件で管内の造影静脈を追う。
- MRI(造影T1、T2*など): 舌下神経管内の線状〜点状の造影として見えることがある。病的血流(硬膜動静脈瘻など)では管内〜顆部の異常拡張静脈やflow voidが手がかりとなる(Osborn, 2017)。
- DSA: 直接の描出は連絡路次第だが、頭蓋底DAVFの流出路として顆静脈〜椎骨静脈叢へ向かう経路が確認されることがある。
臨床統合(診察→画像→介入)
1) 硬膜動静脈瘻(DAVF)と流出路としての重要性