頭頂導出静脈 Vena emissaria parietalis
頭頂導出静脈は、頭蓋内外を直接連絡する導出静脈系の重要な構成要素であり、頭蓋内圧調節や静脈還流において重要な役割を果たす解剖学的構造です(Okudera et al., 2021; San Millán Ruíz et al., 2002)。

後頭部の静脈

頭部静脈系の側副循環の半模式図

J0608 (板間静脈:右側からの図)
解剖学的特徴
走行と連絡
- 頭頂導出静脈は、頭頂骨に存在する頭頂孔(foramen parietale)を通過し、頭蓋内外を直接連絡します(Gray and Standring, 2023)。
- 頭蓋内側では上矢状静脈洞(superior sagittal sinus)と連絡し、頭蓋外側では頭皮静脈叢(superficial veins of the scalp)、特に浅側頭静脈(superficial temporal vein)および後頭静脈(occipital vein)と吻合します(Browder and Kaplan, 1976)。
- この静脈は、頭蓋内の硬膜静脈洞系と頭蓋外の表在静脈系を結ぶ側副循環路の一つとして機能します(Takahashi et al., 2020)。
頭頂孔の特徴
- 頭頂孔は、左右の頭頂骨の矢状縫合(sagittal suture)近傍、通常は縫合から5-15mm外側に位置します(Matsuda et al., 2022)。
- 位置:頭頂骨のオベリオン(obelion:矢状縫合とラムダ縫合の交点から約3cm前方)付近に存在します(Takahashi et al., 2024)。
- 形態学的変異:孔の直径は0.5-2mm程度と小さく、数は片側0-3個と個人差が顕著です。約10-15%の症例では頭頂孔が欠如しています(Boyd, 1930; Gupta et al., 2003)。
- 日本人における出現頻度:両側性(左右各1個)が49.4%と最も多く、次いで片側性、両側複数個の順となります(Yamamoto et al., 2023)。人種差があり、アフリカ系では出現率が高く、アジア系では中程度とされています(Zdilla et al., 2014)。
組織学的構造
- 静脈壁は薄く、内膜、中膜、外膜の3層構造を持ちますが、筋層の発達は乏しく、結合組織が主体です(Rhoton, 2000)。
- 逆流防止弁(venous valve)は存在しないため、双方向性の血流が可能であり、頭蓋内圧と頭蓋外静脈圧の圧較差に応じて血流方向が変化します(Tobinick and Vega, 2006)。
- 静脈は骨孔内で硬膜外層(periosteal layer)と強固に結合しており、この構造により静脈の虚脱が防がれ、常に開存性が維持されます(Warwick and Williams, 1973)。
発生学的背景
- 胎生期において、頭蓋内の硬膜静脈洞系と頭蓋外の静脈系は豊富な吻合を有していますが、成長に伴い多くの連絡は退縮します(Padget, 1956)。