後頭板間静脈 Vena diploica occipitalis

J0608 (板間静脈:右側からの図)
解剖学的構造
1. 局在と走行
- 後頭板間静脈は頭蓋骨の板間層(diploe)内を走行する静脈であり、外板(outer table)と内板(inner table)の間に存在する海綿質骨髄腔内に位置している (Gray and Lewis, 2023)。
- 後頭骨の板間層内を蛇行しながら走行し、主に後頭鱗部(squamous part of occipital bone)の骨髄腔内に分布している (Standring, 2024)。
- 通常、正中線から両側に向かって放射状に広がるパターンを示し、個体差が大きい。
2. 血管壁の構造
- 静脈壁は極めて薄く、通常の静脈のような筋層や弁構造をほとんど持たない特殊な構造である。
- 内皮細胞層が直接骨組織の海綿質に接しており、骨組織に強固に固定されているため、損傷時には自然閉鎖が困難である。
- この構造的特徴により、骨折時や手術時の出血制御が困難となることがある (Moore et al., 2024)。
血管吻合と循環動態
1. 主要な血管連絡
- 後頭部の導出静脈(emissary veins)を介して、後頭静脈(V. occipitalis)と直接的な交通を持っている (Moore et al., 2024)。
- 内側では横静脈洞(Sinus transversus)と連絡しており、頭蓋内静脈系への排血路を形成している。
- 乳突導出静脈(mastoid emissary vein)を介してS状静脈洞(sigmoid sinus)とも交通している。
2. 板間静脈系内の吻合
- 前頭板間静脈(V. diploica frontalis)、前頭頂板間静脈(V. diploica frontoparietalis)、後頭頂板間静脈(V. diploica temporalis posterior)と豊富な吻合ネットワークを形成している。
- これらの吻合により、頭蓋骨全体にわたる板間静脈系のネットワークが構築されている (Netter, 2023)。