下顎後静脈 Vena retromandibularis

頭部静脈系の側副循環の半模式図

J0609 (頚部の深部静脈:右側からの図)

J0611 (顔の深部静脈:右側からの図)

J0612 (頚部の静脈、腹側図)
下顎後静脈は、顔面深部から頭頸部への静脈還流において中心的な役割を果たす重要な血管構造です。耳下腺内を走行し、複数の静脈系を連絡することで、頭頸部の血行動態に不可欠な機能を担っています。
解剖学的特徴
起始と形成
下顎後静脈は、側頭窩の深部において、浅側頭静脈(V. temporalis superficialis)と上顎静脈(V. maxillaris)の合流により形成されます (Standring, 2023)。この合流部は、通常、下顎頸(下顎骨の関節突起の直下)のレベルに位置します (Moore et al., 2023)。
走行と位置関係
- 耳下腺との関係:
- 耳下腺実質内を垂直に下行し、腺の深層部分を貫通します (Gray and Carter, 2024)。
- 耳下腺内では、顔面神経の深層に位置し、神経との間に明確な解剖学的層構造を形成します (Netter, 2024)。
- 下顎枝の後縁に沿って走行し、この骨性指標が外科的アプローチの重要な目印となります。
- 周囲構造との関係:
- 外側:耳下腺の浅葉が位置します。
- 内側:下顎枝と内側翼突筋が接します。
- 前方:顔面神経の分枝(頬枝、下顎縁枝)が交叉します (Wong and Smith, 2023)。
- 後方:乳突突起と胸鎖乳突筋が位置します。
分岐と終末
下顎後静脈は、耳下腺の下極付近で前枝(anterior division)と後枝(posterior division)に分岐します。この分岐パターンには個体差が認められますが、臨床的に重要な意義を持ちます (Zhang and Lee, 2023)。
- 前枝(anterior division):
- 耳下腺の前縁を出て、下顎角の前方を下行します。
- 顔面静脈(V. facialis)と合流し、共通顔面静脈(V. facialis communis)を形成します。
- 共通顔面静脈は、内頚静脈(通常は甲状軟骨上縁のレベル)に開口します (Moore et al., 2023)。
- この経路は、顔面表層からの静脈血を深部静脈系へ還流させる主要ルートとなります。
- 後枝(posterior division):
- 耳下腺の後縁を出て、下顎角の後方を下行します。
- 後耳介静脈(V. auricularis posterior)と合流し、外頚静脈(V. jugularis externa)を形成します。
- 外頚静脈は、胸鎖乳突筋の表層を下行し、通常は鎖骨上方で鎖骨下静脈に開口します。
- この経路は、側頭部や後頭部からの静脈還流における重要な経路です (Johnson et al., 2024)。
解剖学的変異
下顎後静脈の走行と分岐パターンには、臨床的に重要な解剖学的変異が存在します:
- 前枝優位型:前枝が太く発達し、主要な還流路となるパターン(約60%)
- 後枝優位型:後枝が主要な還流路となるパターン(約30%)
- 均等型:前枝と後枝がほぼ同等の太さを持つパターン(約10%)
- 分岐部位の変異:耳下腺内での分岐レベルに個体差があります (Zhang and Lee, 2023)。
機能的意義