前脛骨動脈

前脛骨動脈は、腋窩の遠位部、すなわち膝窩筋の下縁の高さで、膝窩動脈が二分して生ずる枝の一つです。分岐後、下腿骨間膜の上部を越え、骨間膜の前面に出て下行します。経過中に下腿の前外側にある筋とその付近に枝を送ります。動脈はとくに上部と下部で膝関節と足関節との周囲の膝蓋動脈網に小枝を送り、吻合します。前脛骨動脈は、足関節のすぐ上方で表層に現れ、足関節の前側で前脛骨筋の腱の外側に沿って走り、足背で足背動脈となります。

下腿の動脈

下腿の動脈には膝窩動脈、前脛骨動脈、足背動脈、後脛骨動脈、腓骨動脈などがあります。これらの動脈は下腿部や足に酸素を含んだ血液を供給します。

日本人のからだ(村上 弦 2000)によると

前脛骨動脈から前外果動脈が分岐する高さは、過半数で外果下方であり、前内果動脈が分岐する高さについては内果下方、内果の高さ、内果上方がほぼ同数で観察されます。前外果動脈と前内果動脈を比較すると、過半数の例では前外果動脈の方が太いか同じ太さであることが示されています(金子ら、1983)。矢野(1959 a)によれば、前内果動脈の欠損率は2.5%であり、56.4%では距腿関節の高さで前脛骨動脈から分岐します。また、前外果動脈の欠損は0%で、60.0%では距腿関節より下方で前脛骨動脈から分岐します。

千葉(1985)は、後脛骨動脈と腓骨動脈の交通部位について整理し、脛骨後面で長母指屈筋と長指屈筋の間の交通を狭義の交通枝と定義しました(後脛骨動脈が正常な65例中54例に存在)。ただし、交通枝の高さには変異があります。また、下腿筋膜深葉と長母指屈筋の間(14例)および踵骨隆起の上面で下腿筋膜深葉と踵骨腱の間(29例)にも交通が観察されます。

浅腓骨神経伴行動脈A. nervi peronei superficialis (図88)は、Adachi (1928 b)によれば、240側中45側に観察されるとのことですが、その後の研究ではほとんど記載されていません。この動脈は前脛骨動脈枝であり、下方では腓骨動脈枝などに吻合します。

脛骨の栄養動脈の分岐部位(親動脈)は、Adachi (1928 b)による156例の検索では以下の通りです。後脛骨動脈(腓骨動脈起始より上方)、41.7%; 前脛骨動脈、25.6%; 後脛骨動脈(腓骨動脈起始より下方)、21.2%; 膝窩動脈、5.7%; 後脛骨動脈(腓骨動脈分岐部)、3.2%; 腓骨動脈、2.6%。後脛骨動脈、前脛骨動脈あるいは腓骨動脈に由来する脛骨栄養動脈は、脛骨後面の後脛骨筋起始範囲内にある栄養孔に入りますが、その位置は標記の順に内側から外側に位置し、腓骨動脈由来の枝の進入部位が最も脛骨骨間縁に近い(橋口、1959 b)。ただし、後脛骨動脈の腓骨動脈起始より下方から分岐する脛骨栄養動脈は、脛骨後面の長指屈筋起始範囲内にある栄養孔に入ります。また、橋口(1959 c)によれば腓骨の栄養動脈は87.5%で1本で、親動脈は腓骨動脈で、栄養孔は大半の場合で腓骨の中1/3の高さに存在し、腓骨後面の内側寄り(48.6%)か後面中央(31.4%)に位置します。腓骨栄養動脈と腓骨動脈皮枝・筋枝との位置関係は応用的に重要であり、これについては松浦ら(1996)およびOkuda et al. (1998)の研究があります。

脛骨と腓骨の骨膜に分布する動脈については、矢野(1959 a, b)が詳しいです。また、腓骨動脈の皮枝は、筋皮弁など形成外科的手技に軸血管として多用されるため、国内外でよく調査されています。嶋田・吉村(1989)によれば、下腿1側あたり平均4.8本の腓骨動脈皮枝が存在し、その長さは5.5 cm,親動脈からの分岐部における外径は1.2 mmです。

下腿各筋の動脈枝については泉(1941)および今奈良(1961)の研究が古典的ですが、比較的近年の研究としては佐藤泰司門下の大量の所見が残されています(東ら、1986; 戸澤ら、1987; 佐藤ら、1984 b, c, 1985 a, b, 1986, 1987, 1990)。彼らの研究の一部を紹介すると、後脛骨筋では下腿の3動脈がいずれも筋枝を出す場合が55%を占め、中でも腓骨動脈枝が筋質の58.6%の領域を灌流しており、その腓骨動脈枝は同筋のみに分布することが多い(神林ら、1991)。長母指伸筋では、80%で前脛骨動脈枝だけが分布し、同筋だけの固有の筋枝と、他筋にも分布する筋枝が観察されます。平均すれば、前脛骨動脈枝の灌流域は同筋の96%を占めます(横山ら、1991)。また、長指伸筋では、85%で前脛骨反回動脈枝、前脛骨動脈枝、腓骨動脈枝の3者が分布し、同筋だけの固有の筋枝と、他筋にも分布する筋枝が観察されます。平均すれば、前脛骨動脈枝の灌流域は同筋の94%を占めます(佐藤ら、1992)。なお、坐骨神経・脛骨神経・浅腓骨神経・深腓骨神経に分布する動脈枝については木佐(1961)が詳しいです。下肢の血管の組織学的な加齢変化については佐藤(1961)が検討しています。

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図88 浅腓骨神経伴走動脈の1例(Adachi, 1928b)

図88 浅腓骨神経伴走動脈の1例

下腿と足との連絡と足背の動脈

下腿と足の関係性は、主に足背動脈によって形成されています。足背動脈は、酸素を含んだ血液を下肢へ供給する役割を果たし、膝窩動脈、前脛骨動脈、後脛骨動脈、腓骨動脈などから構成されています。さらに、背側中足動脈や背側趾動脈が足背動脈網の一部として存在します。これらは、下腿と足の間の血流を促進し、体の各部分への酸素供給を支えます。