大腿動脈

大腿動脈は外腸骨動脈から始まり、鼠径靱帯の直下を通過し、大腿の内側部の中間と下部の境界で内転筋管の裂孔を貫いて膝窩に出て、膝窩動脈になります。大腿の上部の1/3では、大腿三角を通過しながら大腿静脈と並行して進みます(静脈は内側に位置します)、そして中間の1/3では、縫工筋に覆われながら内転筋管を通ります。

日本人のからだ(村上 弦 2000)によると

大腿三角における大腿動脈の分岐形態は、Adachi(1928 b)以降、大腿神経や大腿静脈との位置関係を含めて多くの研究が行われてきました。稀な例を含めても、分類は多岐にわたりますが、一般的に性別差や左右差は存在しません。動脈の分岐様式のみを考慮すると、8型に分類されています(江村ら、1985)(図086表062)。

内側大腿回旋動脈の分岐と経路については、股関節(寛骨臼)への血液供給の観点から、比較的近年に詳細な調査が行われました。内側大腿回旋動脈の寛骨臼枝は37%に存在し、閉鎖動脈寛骨臼枝は寛骨臼切痕を通じて100%に、下殿動脈の寛骨臼枝は47%に存在します(Kasai et al., 1985)。上殿動脈の枝は寛骨臼上部(臼蓋)に分布します(Itokazu et al., 1997)。

内側大腿回旋動脈の末端枝としては、大内転筋前面への筋枝のほか、大腿方形筋の外側上縁に出現し転子窩に至る上行枝が97%に観察され、大腿方形筋の内側下縁に出現しハムストリング(筋)の上部に分布する横枝は87%に確認されます。横枝は横走するというよりも下行する(Kasai et al., 1985)が、自家所見50体において、大転子上端から腓骨頭上端の距離を100としたとき、上から30以下に達する例は観察できませんでした。第一貫通動脈より下行枝(横枝)が太い例も見つけることはできませんでした(Imai and Murakami, 1998)。

内側大腿回旋動脈枝の名称については、熊木(1967)の検討があります。

外側大腿回旋動脈の下行枝は比較的長距離に渡り太い(2-3 mm)ため、血管茎の両端を吻合する筋皮弁のタイプが日本から提案されています(Koshima et al., 1995)。

通常、下行膝動脈は大腿動脈の最下部から分岐します。吉村(1958)によると、大腿動脈が内転筋管に入る直上から出る例が最も多い(81.9%)で、その過半数では関節枝の他に伏在枝を持つとのことです。下行膝動脈が膝窩動脈から出る場合、伏在枝を欠くことが多いです。

大腿深動脈は複数の貫通動脈として大腿後面に出現しますが、第1貫通動脈が小内転筋と大内転筋の間を通ること以外は不定要素が多いです。大内転筋の筋質を貫く枝は内側貫通枝あるいは内側貫通動脈(山田・萬年,1985)として区別されます(加藤,1962)。

大腿骨の栄養動脈は、58.7%の個体で2本、41.3%で1本だけ存在し、その過半数は大腿深動脈から直接に分岐します(橋口,1959 a)。大腿の筋の動脈については佐藤ら(1993)が詳しく説明しています。例えば、縫工筋では77.8%において上部に大腿深動脈枝、中部に大腿動脈枝、下部に下行膝動脈枝が分布します。佐藤ら(1993)は各筋各部の動脈支配型を分類し、また各親動脈ごとに灌流域を%で示しています。

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図86 大腿動脈の枝の分岐型(江村ら, 1985)

図86 大腿動脈の枝の分岐型

I型: 大腿深動脈、内側大腿回旋動脈、外側大腿回旋動脈の3枝が共同幹(深回旋動脈幹)を形成します。

II型: 内側大腿回旋動脈が大腿動脈から単独で分岐し、大腿深動脈と外側大腿回旋動脈が共同幹(外側深回旋大腿動脈幹)を形成します。

III型: 外側大腿回旋動脈が大腿動脈から単独で分岐し、大腿深動脈と内側大腿回旋動脈が共同幹(内側深回旋大腿動脈幹)を形成します。

IV型: 大腿深動脈、内側大腿回旋動脈、外側大腿回旋動脈がそれぞれ独立して大腿動脈から分岐します。

V型: 外側大腿回旋動脈の下行枝が独立して大腿動脈から分岐し、上行枝が大腿深動脈および内側大腿回旋動脈と共同幹を形成します。