卵巣動脈 Arteria ovarica♀
卵巣動脈は、女性の生殖器系に重要な血液供給を担う動脈であり、骨盤内臓器への血流を確保する上で臨床的にも重要な血管です(Ciçekcibaşi et al., 2004)。
解剖学的特徴
- 起始:腹大動脈から第一または第二腰椎レベルで分岐します(L1-L2椎体間)(Standring, 2020)。
- 走行:腹膜後腔を下行し、骨盤内に入り、卵巣提索(infundibulopelvic ligament)内を走行します(Kimura et al., 2019)。
- 終末:卵巣門で卵巣に入り、子宮動脈の枝と広範囲に吻合します(Macchi et al., 2017)。
- サイズ:直径は約1.5-2mm程度と比較的細い血管です(Arslan et al., 2018)。
卵巣動脈の分布域と支配領域:
- 卵巣実質への主要な血液供給源となります(Macchi et al., 2017)。
- 卵管の外側1/3の部分に分枝を送ります(Standring, 2020)。
- 尿管の上部にも小枝を出します(Wissdorf and Stoll, 2022)。
- 子宮円索に沿って子宮底部まで達する枝もあります(Ravina et al., 2013)。
解剖学的変異
卵巣動脈には個体差が大きく、以下のような変異パターンが報告されています(Ciçekcibaşi et al., 2004; Mamatha et al., 2015):
- 起始部の変異:約20%の症例で腎動脈から分岐する例があります(Pai et al., 2009)。
- 両側非対称性:左右で起始部や走行が異なることがしばしば観察されます(Terada et al., 2015)。
- 走行の変異:
- 右側では通常、下大静脈の腹側を横切って走行します(Wissdorf and Stoll, 2022)。
- 左側では下大静脈を避けてそのまま下方に向かいます(Mamatha et al., 2015)。
- 腎静脈との位置関係は個体差が大きく、腎静脈の腹側、背側、上方、下方のいずれを通過する場合もあります(Ciçekcibaşi et al., 2004)。
臨床的意義
- 婦人科手術(子宮全摘術、卵巣摘出術など)において損傷リスクのある重要血管です(Kimura et al., 2019)。
- 卵巣捻転症では卵巣動脈の血流障害が起こり、急性腹症の原因となります(Sfakianaki and Haider, 2014)。