下腸間膜動脈

下腸間膜動脈は、腹大動脈の第三・第四腰椎の高さから発生し、左側に向かって左結腸動脈、S状結腸動脈、上直腸動脈に分岐します。さらに、中結腸動脈と中直腸動脈と合流します。

上腸間膜動脈と下腸間膜動脈の吻合(SM-IM吻合),腸間膜間動脈(岡本ら,1987)

日本人のからだ(児玉公道 2000)によると

この吻合は3つの吻合の中で、CT-SM吻合に次ぐ出現頻度で、214体中に13例(6.1%)が見られました。岡本ら(1987)は5%と報告しており、概ね5-6%の範囲で存在すると予測されます。上腸間膜動脈側の分岐部位は、直接上腸間膜動脈から分岐するものが8例、中結腸動脈からが4例、下膵十二指腸動脈からが1例でした。

走行は十二指腸空腸曲の上縁から腸管の縁に沿って、十二指腸提筋の浅層を横切り、下腸間膜動脈から下腸間膜静脈に伴行して上行する左結腸動脈の幹と連なります。このSM-IM吻合は下腸間膜静脈に伴行するため、腸管に沿って形成される辺縁動脈の交通とは異なり、各動脈の基部を縦に繋ぐ吻合であり、一定の形を呈するため、特定の形成原則に従って出現すると考えられます。

これら3つの吻合については、WilliamsとKlop (1957)の報告が比較的まとまっている程度で、日本での報告は見当たりません。CT-SM吻合とSM-IM吻合は、腸管が回転を開始する前の発生段階で、CTの最下枝とSMの最上枝の根相互間、またSMの最下枝とIMの最上枝が連絡する吻合として形成され、そのまま残存すると考えられます。CTとIMの吻合の報告はMichels (1955)の2例とFeigl et al.(1975)の1例だけで、少ないです。CT側の分枝が後膵動脈と思われる特徴は共通しています。さらに、後膵動脈から分岐し、膵臓と脾静脈の深層を下行し横行結腸に分布する副中結腸動脈とも密接な関係があることが明らかになりました。

腹腔動脈(CT)と下腸間膜動脈(IM)の吻合(CT-IM吻合)

この例では、腹腔動脈側の分岐部は脾動脈の基部または総肝動脈の基部から分岐する後膵動脈が関与します。後膵動脈は膵臓と脾静脈の背側を下行し、十二指腸空腸曲の上方に達した後、その上縁を左に向かって左結腸動脈の本幹に連なります。その走行は下腸間膜静脈に伴行し、3例全てで左結腸曲に枝を出し、2例では中結腸動脈にも分枝します。これは前述のCT-SM吻合と後述のSM-IM吻合の組み合わせにより理解できます。つまり、近位部はCT-SM吻合が関与し、SMに連なる部分が消失し、SM-IM吻合のSMへの吻合部分も消失します。この結果、両端が直接繋がり形成されると考えられます。

日本人のからだ(児玉公道 2000)によると

腹部消化器系の動脈は臓側枝の代表的なものであり,通常では腹腔動脈,上腸間膜動脈,下腸間膜動脈の3本の動脈が大動脈から起始する.しかし下腸間膜動脈が欠損し,すべて上腸間膜動脈からの枝が分布する例や,腹腔動脈の枝が左結腸動脈を代償したり,両者が吻合したりする例など,3動脈相互の競合・代償・吻合関係が存在する.腹部消化管系動脈の変異を考察する場合,鍵となる吻合関係について所見をあきらかにする.

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図74 腹部消化管系動脈管の吻合経路模式図(岡本ら, 1987)

図74 腹部消化管系動脈管の吻合経路模式図

aとbではCT-SM吻合を、aとcではCT-IM吻合を、bとcではSM-IM吻合の形成を示します。 a, b, cは吻合経路の区分を示します。 CH: 総肝動脈、CT: 腹腔動脈、IM: 下腸間膜動脈、IMV: 下腸間膜静脈、LC: 左結腸動脈、PP: 後膵動脈、SM: 上腸間膜動脈、Sp: 脾動脈、SpV: 脾静脈