腹大動脈 Aorta abdominalis
腹大動脈は腹部の主要血管であり、全身への血液供給において重要な解剖学的構造です。その詳細な特徴と臨床的意義は以下の通りです(Gray, 2020; Standring, 2021):
1. 解剖学的特徴
- 起始と走行:横隔膜大動脈裂孔(T12レベル)で胸大動脈から連続し、腹部大動脈となります。脊柱の前面を下行し、腹部脊椎の左側を通過します(Moore et al., 2018)。
- 終末:第4腰椎体レベル(L4)で腹大動脈分岐(aortic bifurcation)を形成し、左右の総腸骨動脈に分かれます。分岐部からは細い正中仙骨動脈が続きます(Netter, 2019)。
- 直径:成人では約2cm程度で、末梢に向かうにつれて徐々に細くなります(Agur and Dalley, 2017)。
- 組織学的構造:内膜、中膜、外膜の3層構造を持ち、中膜には弾性線維が豊富で、血圧変動に対応します(Ross and Pawlina, 2016)。
2. 主要分枝
腹大動脈の分枝は内臓枝と壁側枝に大別されます(Drake et al., 2020):
2.1 内臓枝(腹側)
- 腹腔動脈(Celiac trunk):T12-L1レベルで分岐し、上腹部臓器への血液供給を担います(Standring, 2021)。
- 左胃動脈:胃の小弯に分布
- 脾動脈:脾臓と膵臓の一部に分布
- 総肝動脈:肝臓、胆嚢、十二指腸、膵臓に分布
- 上腸間膜動脈(Superior mesenteric artery):腹腔動脈の約1〜2cm下方(L1レベル)で分岐し、小腸と結腸の右半分(盲腸から横行結腸の2/3まで)を栄養します(Moore et al., 2018)。
- 下腸間膜動脈(Inferior mesenteric artery):L3レベルで分岐し、結腸の左側(横行結腸の1/3から直腸上部まで)に血液を供給します(Netter, 2019)。
2.2 内臓枝(側方)
- 腎動脈(Renal arteries):L1-L2レベルで左右に分岐し、腎臓へ血液を供給します。全心拍出量の約20-25%がここを通過します(Agur and Dalley, 2017)。
- 副腎動脈(Suprarenal arteries):副腎への血液供給を担います(Drake et al., 2020)。
- 精巣/卵巣動脈(Gonadal arteries):生殖腺への血液供給を担います(Standring, 2021)。
2.3 壁側枝
- 下横隔膜動脈(Inferior phrenic arteries):横隔膜下面に分布します(Moore et al., 2018)。
- 腰動脈(Lumbar arteries):通常4対あり、腰部の脊髄、脊柱、および背部筋肉に分布します(Netter, 2019)。