腹大動脈;大動脈腹部

腹大動脈は、下行大動脈の腹腔内に位置し、胸大動脈の延長線上にあります。横隔膜大動脈裂孔で始まり、脊柱の前方を下行し、第4腰椎の高さで左右の総腸骨動脈に分岐し、細い正中仙骨動脈に移行します。胸大動脈とは異なり、臓器側の枝が豊富であり、協調性があります。

日本人のからだ(宮木孝昌 2000)によると

(1)腹大動脈の内臓枝の分類と名称(図59)

解剖学用語では、腹大動脈から直接分岐する内臓枝(臓側枝または腹側枝)には、腹腔動脈、上腸間膜動脈、下腸間膜動脈があります。腹腔動脈は、左胃動脈、脾動脈、総肝動脈の3つの動脈に分岐します。発生学的には、腹腔動脈は胃脾動脈(左胃動脈と脾動脈の共同幹)と総肝動脈の共同幹と見なすことができます(三木、1973)。本文では、腹腔動脈は胃肝脾動脈に相当し、腹腔動脈を構成する3つの動脈の変異について、以下の名称を用いました(図59)。腹腔腸間膜動脈(腹腔動脈と上腸間膜動脈の共同幹で、胃肝脾腸間膜動脈)、肝脾腸間膜動脈(脾動脈と総肝動脈と上腸間膜動脈の共同幹)、肝腸間膜動脈(総肝動脈と上腸間膜動脈の共同幹)、脾腸間膜動脈(脾動脈と上腸間膜動脈の共同幹)、胃脾動脈(左胃動脈と脾動脈の共同幹)、肝脾動脈(脾動脈と総肝動脈の共同幹)、胃肝動脈(左胃動脈と総肝動脈の共同幹)(Lippert and Pabst, 1985)。

059.png

図59 腹腔動脈と上腸間膜動脈の構成と3種の肝動脈

図59 腹腔動脈と上腸間膜動脈の構成と3種の肝動脈

腹腔動脈は、左胃動脈、脾動脈、総肝動脈から構成されます。肝臓の動脈は、左胃動脈、総肝動脈、上腸間膜動脈、および腹腔動脈から派生する動脈に分けられます。これらは左肝動脈、中肝動脈、右肝動脈と呼ばれます。これらの肝動脈は、発生学的に3本の連続する動脈(斜線、空白、点)から由来します。

CHA: 総肝動脈、CT: 腹腔動脈、D: 右肝動脈、DU: 十二指腸、LGA: 左胃動脈、M: 中肝動脈、S: 左肝動脈、SA: 脾動脈、SM: 上腸間膜動脈、Sp: 脾臓、St: 胃

(2)腹大動脈の内臓枝の出現型(図60, 61,表37)

成人378例の腹大動脈から直接発生する内臓枝のうち、腹腔動脈を構成する3本の動脈の変異を調査しました。その結果、以下のような分類ができました。①腹腔動脈と上腸間膜動脈が1本となって腹大動脈から発生するもの4例(1.1%)、②腹腔動脈を構成する動脈と上腸間膜動脈が2本となって腹大動脈から発生するもの360例(95.0%)、及び、③3本となって発生するもの14例(3.9%)です。

22例(6.1%)では、左胃動脈、脾動脈、総肝動脈は共通幹としての腹腔動脈を構成していませんでした(図60 C-K)。

また、腹部内臓の動脈については、分岐型だけでなく長さなどの計測も臨床上重要と思われます。それについての詳細は、石塚(1958 a, b, c)の研究を参照してください。

060.png

図60 腹大動脈の内臓枝の出現型(成人378例中の出現率)