背枝(肋間動脈の)Ramus dorsalis (Arteria intercostalis posterioris)

J0584 (胸大動脈、腹側図)
肋間動脈の背枝は、後肋間動脈から分岐する臨床的に重要な枝です(Standring et al., 2021)。解剖学的特徴と臨床的意義は以下の通りです:
1. 解剖学的走行
- 肋骨頚の上縁を後外側に走行し、椎体の外側を迂回して背側に向かいます(Moore et al., 2018)。
- 胸神経後枝に伴行して椎骨の横突起の上を通過し、脊柱起立筋群の深部に到達します。
- その走行中、内側皮枝(ramus cutaneus medialis)と外側皮枝(ramus cutaneus lateralis)に分枝し、これらは背部の皮膚に分布します(Netter, 2019)。
- 筋枝(rami musculares)を分岐して深背筋群(固有背筋)に栄養を供給します。特に脊柱起立筋、多裂筋、回旋筋などの傍脊柱筋群に重要です。
- 脊髄枝(ramus spinalis)は臨床的に最も重要な分枝であり、椎間孔を通過して脊柱管内に進入し、脊髄実質とその髄膜(硬膜、クモ膜、軟膜)に血液を供給します(Drake et al., 2020)。
2. 臨床的意義
- 脊髄動脈症候群:背枝の脊髄枝が障害されると、対応する脊髄分節の虚血を引き起こし、神経学的症状を呈することがあります(Groen et al., 2013)。
- 脊髄血管造影検査:脊髄の血管病変(動静脈奇形など)の診断において、背枝の脊髄枝の評価が重要です(Mathis et al., 2019)。
- 椎体周囲ブロック:疼痛治療において、背枝をターゲットとした神経ブロックが腰痛治療に用いられます(Cohen et al., 2017)。
- 脊椎手術:後方アプローチの脊椎手術では、背枝の走行を理解することが出血リスクの低減に寄与します(Hsu et al., 2015)。
肋間動脈の背枝は解剖学的に複雑な走行を示し、背部の筋肉、皮膚、そして特に脊髄への血液供給において極めて重要な役割を担っています(Standring et al., 2021)。その障害は重篤な神経学的合併症を引き起こす可能性があるため、臨床医学において正確な理解が求められる血管構造です。
参考文献
書籍
- Drake, R.L., Vogl, A.W. and Mitchell, A.W.M. (2020) Gray's Anatomy for Students. 4th edn. Philadelphia: Elsevier.——医学生向けの解剖学教科書として広く用いられており、臨床的視点から解剖学の基礎を詳細に解説しています。特に血管系の走行と臨床応用について包括的な記述があります。
- Moore, K.L., Dalley, A.F. and Agur, A.M.R. (2018) Clinically Oriented Anatomy. 8th edn. Philadelphia: Wolters Kluwer.——臨床医学に直結した解剖学の標準的教科書であり、解剖学的構造の臨床的意義と病態生理学的関連性を重視した内容となっています。