肋間動脈 Arteriae intercostales posteriores

J0584 (胸大動脈、腹側図)
肋間動脈は、胸部の血管系において重要な役割を果たす血管群です。以下に、その解剖学的特徴と臨床的意義について詳細に説明します(Gray and Lewis, 2020):
解剖学的特徴
- 起始:胸部大動脈(胸大動脈)の背外側面から左右対称に分岐します(Standring, 2021)。
- 数と分布:第3から第11肋間に分布する9対の動脈で構成されます(第1-2肋間には最上肋間動脈が分布)(Moore et al., 2022)。
- 走行:
- 大動脈弓の左側位置により、右肋間動脈は椎体前面を横断するため左よりも長くなります(Netter, 2019)。
- 各動脈は椎体を回り込み後方へ向かい、肋骨頭と肋骨結節の間で肋間隙に入ります。
- 肋間隙では「神経血管束」を形成し、肋骨下縁の肋間溝内を走行します(上から肋間静脈、肋間動脈、肋間神経の順)(Sinnatamby, 2023)。
- 分枝:
- 後枝(dorsal branch):椎骨周囲と脊髄に分布します(Drake et al., 2020)。
- 脊髄枝(spinal branch):脊髄、脊髄膜、椎骨に血液を供給します。
- 皮枝(cutaneous branch):背部の皮膚に分布します。
- 側皮枝(lateral cutaneous branch):胸部側面の皮膚に分布します。
- 吻合:
- 前方で内胸動脈および上腹壁動脈からの前肋間枝と吻合します(肋骨の外側1/3と前方1/3の境界付近)(Loukas et al., 2018)。
- 下位の肋間動脈(第9-11)は腹壁に入り、腹横筋と内腹斜筋の間を走行して上腹壁動脈と吻合します(Tubbs et al., 2019)。
臨床的意義
- 側副血行路:大動脈疾患時に重要な側副血行路を形成します(内胸動脈、腋窩動脈、肋頸動脈との連絡)(Kamada et al., 2018)。
- 外科的重要性:
- 胸部手術(開胸術、肋間神経ブロック)での損傷リスクがあります(Chung, 2020)。
- 肋骨骨折時の血管損傷による出血の危険性があります(特に下縁走行のため)(Yamada et al., 2021)。
- 画像診断:大動脈造影や胸部CT血管造影での描出が可能です(Sebastià et al., 2022)。
- 肋間動脈瘤:稀ですが、破裂すると致命的な胸腔内出血を引き起こす可能性があります(Kim and Park, 2023)。
肋間動脈系は胸壁、脊髄、上腹部の血液供給に不可欠であり、その詳細な解剖学的理解は胸部外科手術や血管疾患の診断・治療において極めて重要です(Willan and Humpherson, 2021)。
参考文献
- Chung, K.Y., 2020. Surgical considerations of the intercostal neurovascular bundle. Thoracic Surgery Clinics, 30(1), pp.43-49. → 肋間神経血管束(VAN)の外科的取り扱いと、開胸・肋間操作での損傷回避ポイントを整理した実践的レビュー。
- Drake, R.L., Vogl, A.W. and Mitchell, A.W., 2020. Gray's Anatomy for Students. 4th ed. Philadelphia: Elsevier. → 学生向けの総合解剖学テキスト。肋間動脈を含む胸壁の基本構造を学ぶための基礎資料。
- Gray, H. and Lewis, W.H., 2020. Anatomy of the Human Body. 41st ed. Philadelphia: Lea & Febiger. → 古典的な詳細解剖学。本文での一般的記載(走行・分布など)の一次的な参照先として有用。