気管支動脈

気管支動脈は通常2~3本存在し、大胸動脈やその周辺の動脈から派生します。これらの動脈は肺門から肺に向かって進入し、気管支とその分岐に沿って走ります。呼吸細気管支に至るまでの気道、小葉間結合組織、および臓側胸膜に血液を供給します。

日本人のからだ(児玉公道 2000)によると

気管支動脈の剖出は従来から難しいとされてきました。これは、動脈自体が細いだけでなく、起始・走行が多様で、かつ局所関係が複雑であるためです。従来の解剖術式では見落としが避けられません。胸部内臓の解剖では、まず心臓を心膜を残して摘出し、次に肺を肺門で切断しますが、肺門を切断する際にほとんど直視下で行えないのが現実です。

私たちは、胸部内臓を一括して剖出する術式を採用しています。胸壁の肋骨を取り除き、胸骨と剣状突起を正中断して胸壁を開き、注意深く肺を持ち上げながら、左右の気管支動脈を探します。右側はしばしば奇静脈の内側に隠れているため、奇静脈を気管支をまたぐ部分で切り、気管支動脈を明らかにします。左側は大動脈から出る枝を、大動脈を動脈管索の遠位で切る前に剖出します。それ以外の起始を持つ気管支動脈は、予想していれば比較的容易に見つけられます。

たとえ見落としたとしても、気管を第2胸椎の高さで切るため、気管に分布する枝や縦隔枝も保存できます。すべての疑わしい動脈は、基本的に分岐直後の2ヵ所を色糸でマークし、その間を切断します。心肺一括摘出後に詳細に所見を記録します。

注意すべき点として、大動脈から分岐した気管支動脈が食道の深層あるいは浅層を通じて右肺の気管支動脈に枝分かれする場合があります。この場合、食道を挟む関係になるため、マークして切断する必要があります。心肺一括摘出後は、再連絡を行い、食道との関係も記録しておきます。

それぞれの術式には利点と欠点がありますが、何を明らかにするかによって術式も決定されます。気管支動脈に関しては、私たちの方法が最良ではないかと考えています。この術式に基づき、気管支動脈の実態を調査し明らかにしました。

起始については以下のように8つに分類し、その頻度を表34図55に示しました。

①左側が下行大動脈で、132体中128体(97.0%)に存在し、最も恒常的な枝です。この値は河西(1989)と同じですが、複数存在する場合もあり、最高は4本で、総数は165本でした。大動脈から分岐する高さは、河西(1989)によると第5胸椎の高さが最も多いものの、一定の傾向を見つけるのは困難です。

表34 気管支動脈の起始

表34 気管支動脈の起始

起始部 本数 %
①下行大動脈から 165 49.1
②肋間動脈から 127 37.8
③内胸動脈 15(右10 ・ 左5) 4.5
④下甲状腺動脈 9(右7・左2) 2.7
⑤肋頚動脈 6(右6・左0) 1.8
⑥鎖骨下動脈 3(右2・左1) 0.9
⑦腕頭動脈 5 1.5
⑧大動脈弓 6 1.8
336 100

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図55 気管支動脈の起始部とその頻度(単位は「本」)

図55 気管支動脈の起始部とその頻度(単位は「本」)

気管支動脈が大動脈に近い肋間動脈から起始する場合、その起始部分の肋間動脈は一つ上の肋間動脈と共同幹を形成していることが示されています。 注: 総頚動脈 = CC、肋頚動脈 = CT、最上肋間動脈 = HIc、肋間動脈 = Ic、内胸動脈 = IT、下甲状腺動脈 = ITh、鎖骨下動脈 = SA、椎骨動脈 = VA