後上腕回旋動脈 Arteria circumflexa humeri posterior

J0572 (右の鎖骨下動脈:右側からの図)

J0574 (右腋窩の動脈、正面図)

J0575 (右肩甲骨の動脈:背面図)

J0577 (右上腕の動脈、背面からの図)
後上腕回旋動脈は腋窩動脈の重要な分枝であり、肩関節周辺の血液供給において中心的役割を担っています (Standring, 2020)。解剖学的構造と臨床的意義について詳述します:
解剖学的特徴
- 起始:腋窩動脈の第3部 (小胸筋の外縁より遠位部) から分岐し、通常は肩甲下動脈の分岐部位の近くに位置します (Moore et al., 2018)。
- 径路:前上腕回旋動脈とほぼ同じ高さで分岐しますが、直径は約3〜4mmとより太く、主要な血管です (Netter, 2019)。
- 走行:腋窩神経 (C5-C6由来) と伴走し、四辺形間隙 (外側腋窩裂) を通過します。この間隙は上腕三頭筋長頭の外側で、小円筋 (上部)、大円筋 (下部)、上腕骨 (外側)、上腕三頭筋長頭 (内側) に囲まれています (Drake et al., 2020)。
- 末梢走行:四辺形間隙を通過後、三角筋の深層を上腕骨の外科頚 (surgical neck) に沿って走行し、三角筋枝を分枝します (Sinnatamby, 2019)。
分布と吻合
- 主な分布:三角筋、小円筋、大円筋、肩甲下筋の一部、上腕三頭筋長頭、肩関節包後部に血液を供給します (Standring, 2020)。
- 吻合網:前上腕回旋動脈、肩甲上動脈、肩甲回旋動脈、上腕深動脈と吻合し、肩関節周囲の豊富な側副血行路を形成します。この吻合網は「肩峰周囲吻合環 (perihumeral anastomotic circle)」として知られています (Agur and Dalley, 2017)。
臨床的意義
- 骨折:上腕骨外科頚骨折の際に損傷するリスクがあり、重要な出血源となる可能性があります (Rockwood et al., 2019)。
- 肩関節脱臼:特に前方脱臼の際に損傷することがあります。腋窩神経と併走するため、神経血管障害を合併することがあります (Itoi et al., 2018)。
- 側副血行路:腋窩動脈近位部の閉塞や狭窄の際に、重要な側副血行路として機能します (Cooper et al., 2021)。
- 腋窩神経損傷:腋窩神経と伴走するため、腋窩神経麻痺の症例では、この動脈の機能も障害される可能性があります。これにより三角筋の萎縮や肩関節機能障害が進行することがあります (Sunderland, 2018)。
- 外科的考慮:肩関節の手術や腋窩部へのアプローチの際に損傷リスクがあるため、外科医はその走行を十分に理解する必要があります (Burkhart et al., 2020)。
後上腕回旋動脈は、解剖学的バリエーションも多く、約15%の症例で異常走行や分岐パターンが報告されています (Huelke, 2022)。このため血管造影や手術前評価では注意が必要です。また、肩関節周囲の血液供給において中心的役割を果たすため、整形外科的治療や再建手術において重要な考慮点となります (Matsen et al., 2021)。
参考文献
- Agur, A.M.R. and Dalley, A.F. (2017) Grant's Atlas of Anatomy, 14th ed. Philadelphia: Lippincott Williams & Wilkins.——人体解剖学の詳細な図譜を提供する標準的な解剖学アトラスで、血管系の走行と分布を視覚的に理解するための優れた資料。