肩峰動脈網(胸肩峰動脈の) Rete acromiale (Arteria thoracoacromialis)

J0557 (頚部浅層の動脈:右前方からの図)

J0572 (右の鎖骨下動脈:右側からの図)

J0576 (右上腕の動脈、手掌側からの図)
肩峰動脈網は肩峰部に位置する複雑な動脈吻合網で、胸肩峰動脈の枝や他の肩部動脈から血液を受け、側副血行路として機能し、肩関節手術や外傷時の血管損傷リスク、上肢の血行再建に重要な解剖学的指標となる。
解剖学的詳述(位置・構成・吻合)
肩峰動脈網(rete acromiale)は、肩甲帯の外側—とくに肩峰(acromion)前外側縁から肩鎖関節周囲に形成される動脈吻合網で、上肢近位の側副血行路として機能する。主な供血は、**胸肩峰動脈(a. thoracoacromialis)の肩峰枝(ramus acromialis)**を中核に、周囲の肩甲上・肩甲回旋・上腕回旋動脈系が合流することで成立する(Standring, 2021; Moore, Dalley & Agur, 2022)。
主要な流入・連絡(代表パターン)
文献により表現は異なるが、臨床解剖として押さえるべき連絡は以下である(Standring, 2021; Moore, Dalley & Agur, 2022)。
- 胸肩峰動脈(鎖骨下動脈→腋窩動脈系):肩峰枝が三角胸筋溝付近から前外側へ向かい、肩峰・肩鎖関節前方で網を作る。
- 肩甲上動脈 a. suprascapularis(甲状頸動脈→鎖骨下動脈系):棘上窩〜肩峰後上方へ連絡し得る。
- 肩甲回旋動脈 a. circumflex scapularis(肩甲下動脈→腋窩動脈系):肩甲三角(triangular space)を通過して背側で肩甲骨周囲網を形成し、肩峰近傍へ交通し得る。
- 後上腕回旋動脈 a. circumflex humeri posterior(腋窩動脈):四辺形間隙(quadrangular space)を通過し、三角筋深面〜肩関節周囲で肩峰側へ交通し得る。
位置関係(層構造の目安)
- 浅層:皮下〜三角筋筋膜直下(肩峰外側)に細い吻合枝が走行し、表在静脈・皮神経と近接することがある。
- 中間層:三角筋(m. deltoideus)前部線維の深面〜烏口肩峰弓(coracoacromial arch)近傍で、肩峰枝が前外側へ展開する。
- 深層:肩鎖関節包・肩峰下滑液包周囲の小枝が関節包血行に寄与する。肩峰形成術や鏡視下手技ではこのレベルの止血が問題になり得る(Standring, 2021)。
変異・側副血行としての意義
肩甲骨周囲の吻合(scapular anastomosis)と連続して、肩峰動脈網は**鎖骨下動脈系(甲状頸動脈など)と腋窩動脈系(肩甲下動脈など)**の間の交通として理解すると実務的である。近位部の血流障害(例:鎖骨下動脈〜腋窩動脈の狭窄/閉塞)がある場合、肩甲帯の吻合が発達し、造影CT/DSAで肩峰周囲に細かな側副血行が目立つことがある(Moore, Dalley & Agur, 2022)。
臨床統合(診察→画像→介入)
1) 診察・手技(穿刺/切開)での注意点
- 肩鎖関節(AC)注射や前外側肩部の小切開では、肩峰前縁付近の表在枝を損傷し得る。細いが数が多いため、**“にじむ出血”**として止血に難渋することがある。