肩峰枝(胸肩峰動脈の)Ramus acromialis (Arteria thoracoacromialis)

J0572 (右の鎖骨下動脈:右側からの図)

J0574 (右腋窩の動脈、正面図)

J0576 (右上腕の動脈、手掌側からの図)
解剖学的特徴
起始と走行
胸肩峰動脈の肩峰枝(Ramus acromialis arteriae thoracoacromialis)は、腋窩動脈(Arteria axillaris)の第一部から分岐する胸肩峰動脈の主要な分枝の一つです。この血管は肩峰部への主要な血液供給を担っており、以下のような詳細な解剖学的経路を持ちます(Standring et al., 2020; Moore et al., 2022):
- 胸肩峰動脈は鎖骨下縁で小胸筋の上縁を貫通した直後に、三角筋枝、胸筋枝、肩峰枝、鎖骨枝の4つの主要分枝に分岐します。
- 肩峰枝は烏口突起(Processus coracoideus)の上縁を横断し、外側方向へ走行します。この走行中、烏口鎖骨靭帯(Ligamentum coracoclaviculare)の深層を通過します。
- 三角筋の起始部である鎖骨外側1/3の深層を通過し、三角筋と大胸筋の間の筋間隙に沿って走行します。
- 肩鎖関節(Articulatio acromioclavicularis)付近で深筋膜を貫通して浅層に出現し、三角筋の表層に分布します。
- 最終的に肩峰(Acromion)の表面で肩峰動脈網(Rete acromiale)を形成します。
血管径と解剖学的変異
肩峰枝の血管径は通常1.5〜2.5mm程度ですが、個体差が大きく、他の分枝との相対的な発達度によって変動します(Chung et al., 2021)。解剖学的変異として以下が報告されています:
- 約15〜20%の症例で、肩峰枝が胸肩峰動脈ではなく腋窩動脈から直接分岐する変異が見られます(Lippert and Pabst, 2017)。
- 稀に、肩峰枝が肩甲上動脈や後上腕回旋動脈と共通幹を形成することがあります。
- 肩峰枝の発達が乏しい場合、肩甲上動脈の肩峰枝が代償的に発達することが知られています(Natsis et al., 2019)。
肩峰動脈網の構造
肩峰動脈網(Rete acromiale)は、肩峰の表層皮下に存在する豊富な動脈吻合のネットワークであり、以下の血管からの分枝が複雑に吻合して形成されています(Netter, 2019; Bergman et al., 2021):
- 胸肩峰動脈の肩峰枝:肩峰動脈網の主要な供給源であり、最も太い枝です。
- 肩甲上動脈の肩峰枝(Ramus acromialis arteriae suprascapularis):肩甲上神経とともに肩甲切痕を通過し、肩峰の後上方から肩峰動脈網に参加します。
- 後上腕回旋動脈の分枝(Rami arteriae circumflexae humeri posterioris):腋窩神経とともに四辺形間隙を通過し、三角筋の深層から肩峰動脈網に流入します。