肩峰枝(胸肩峰動脈の)Ramus acromialis (Arteria thoracoacromialis)
解剖学的特徴
胸肩峰動脈の肩峰枝は、腋窩動脈の分枝である胸肩峰動脈から分岐する重要な血管です。解剖学的には、次のような特徴と経路を持ちます(Standring et al., 2020):
- 烏口突起の上縁を横断し、外側方向へ走行します。
- 三角筋の起始部である鎖骨外側部の深層を通過します。
- 肩鎖関節付近で浅層に出て、三角筋の表層に分布します。
- 最終的に肩峰部で肩峰動脈網(rete acromiale)を形成します(Moore et al., 2022)。
肩峰動脈網
肩峰動脈網は、肩峰の表層皮下に存在する動脈吻合のネットワークであり、以下の血管からの分枝が複雑に吻合しています(Netter, 2019):
- 胸肩峰動脈の肩峰枝(主要な供給源)
- 肩甲上動脈の肩峰枝
- 後上腕回旋動脈の分枝
- 肩甲回旋動脈の分枝
臨床的意義
肩峰枝の臨床的重要性は、以下の点に要約されます(Rockwood and Matsen, 2019):
- 肩関節手術(特に肩峰形成術や腱板修復術)において、損傷リスクがある血管です。
- 肩峰下滑液包炎や肩峰下インピンジメント症候群の病態に関与する可能性があります(Burkhart et al., 2020)。
- 肩関節周囲の外傷や骨折時に、副側循環路として重要な役割を果たします。
- 稀に、肩峰動脈網からの出血が問題となることがあります(Meyer et al., 2018)。
この肩峰枝の走行と分布を理解することは、肩関節の手術計画や肩部の血行障害を評価する上で非常に重要です(Chung et al., 2021)。