後大脳動脈 Arteria cerebri posterior

大脳半球内側面の動脈



脳底の動脈(大脳動脈輪を中心に)

後大脳動脈

J0567 (脳底の動脈)

J0568 (右側の中大脳動脈と脈絡膜動脈、尾側図)

J0569 (右大脳半球の内側面の動脈)

J0570 (脳を取り除いた後の頭蓋内の大きな脳動脈の位置:左側からの右頭蓋の図)

J0571 (脳を取り除いた後の頭蓋内の大きな脳動脈の位置:頭蓋骨の上方からの図)
解剖学的特徴
- 脳底動脈の吻側端から左右に分岐して形成され、大脳後方循環の主要な血管である (Yasargil, 1984)。
- 走行経路:大脳脚の外側を走行し、後交通動脈と吻合する(P1区間)。その後、中脳の外側面を迂回し(P2区間)、小脳テント上を走行して(P3区間)、最終的に後頭葉内側面に至る(P4区間) (Rhoton, 2000)。
- 皮質枝と穿通枝に分かれ、穿通枝は視床、中脳、視床下部への重要な血液供給を担う (Osborn, 2013)。
血液供給領域
- 皮質枝:内側後頭葉(一次視覚野を含む)、下側頭回、海馬傍回、鉤回、紡錘状回、楔前部、楔部に分布する (Tatu et al., 1998)。
- 穿通枝:視床後外側部、中脳、視床下部、脈絡叢に分布する (Tatu et al., 1998)。
- 傍正中穿通枝(視床穿通動脈):視床内側核群、中脳被蓋への重要な血液供給を担う (Percheron, 1973)。
臨床的意義
- 後大脳動脈領域の梗塞:同側の同名半盲、色名呼称障害、相貌失認、物体失認などの高次脳機能障害を引き起こす (Caplan, 1993)。
- 視床梗塞:感覚障害、記憶障害、意識障害などの多彩な症状を呈する可能性がある (Kumral et al., 2001)。
- 胎生期の後大脳動脈は内頚動脈系から発生し、その後、脳底動脈系に移行する。この発生学的特徴により、胎児型後大脳動脈(後交通動脈優位型)という変異が約20%の症例で認められる (van Raamt et al., 2006)。
参考文献
書籍
- Osborn, A.G. (2013) Osborn's Brain: Imaging, Pathology, and Anatomy. 1st edn. Salt Lake City: Amirsys.——脳神経画像診断学の権威による包括的な教科書。脳の解剖、病理、画像所見を統合的に解説しており、後大脳動脈の解剖学的特徴と画像診断における重要性について詳述している。
- Rhoton, A.L. (2000) Cranial Anatomy and Surgical Approaches. Philadelphia: Lippincott Williams & Wilkins.——神経外科解剖学の金字塔的著作。手術的アプローチに必要な詳細な解剖学的知識を提供しており、後大脳動脈の微小解剖と外科的ランドマークについて精緻な図版とともに解説している。
- Yasargil, M.G. (1984) Microneurosurgery. Vol. I. Stuttgart: Thieme.——マイクロサージャリーの創始者による古典的名著。後大脳動脈の外科解剖と手術手技について、豊富な症例経験に基づいた実践的な知見を提供している。
学術論文