脳底動脈 Arteria basilaris
解剖学的特徴 (Standring et al., 2021)
- 左右の椎骨動脈が、大後頭孔付近で合流して形成される単一の動脈である。
- 長さ約3cm、直径約3-4mmの太い動脈で、橋の腹側正中溝に沿って上行する。
- くも膜下腔内を走行し、脳底槽の重要な構成要素となる。
主要な分枝と支配領域 (Rhoton, 2002)
- 橋枝(Rami pontis)
- 橋実質に直接入り込む穿通枝群である。
- 橋の血流供給に重要な役割を果たす。
- 迷路動脈(A. labyrinthi)
- 内耳道を通って内耳へ分布する。
- 前庭動脈は、前庭器官への血流を供給する。
- 蝸牛動脈は、蝸牛への血流を供給する。
- 前下小脳動脈(A. cerebelli inferior anterior)
- 小脳下面前部、小脳橋角部、および下小脳脚領域を栄養する。
- 内耳道近傍を走行するため、聴神経腫瘍の手術における重要な指標となる。
- 上小脳動脈(A. cerebelli superior)
- 小脳天幕下面に沿って走行し、小脳上面と中脳背側部を栄養する。
- 小脳歯状核や上小脳脚領域にも分布する。
終枝と脳循環の特徴 (Osborn, 2016)
- 後大脳動脈(A. cerebri posterior)として左右に分岐する。
- 大脳脚外側を回り、後頭葉・側頭葉下面を栄養する。
- 視床、脈絡叢への重要な穿通枝を分枝する。
- 後交通動脈を介してウィリス動脈輪を形成する。
- 内頚動脈系と椎骨脳底動脈系の重要な吻合路となる。
- 一側の主幹動脈閉塞時の側副血行路として機能する。
臨床的意義 (Caplan, 2016)
- 脳底動脈閉塞症は、致死的な脳幹梗塞を引き起こす可能性がある。
- 椎骨脳底動脈系の血流不全は、めまい、複視、構音障害などの症状を呈する。
- 動脈解離や動脈瘤の好発部位であり、くも膜下出血の原因となりうる。
参考文献
- Caplan, L.R. (2016) 'Posterior Circulation Cerebrovascular Syndromes', in Caplan's Stroke: A Clinical Approach, 5th edn. Cambridge University Press.
- Osborn, A.G. (2016) 'Posterior Circulation and Vertebrobasilar Territory', in Osborn's Brain: Imaging, Pathology, and Anatomy, 2nd edn. Elsevier.