前脊髄動脈 Arteria spinalis anterior
解剖学的特徴と走行
- 左右の椎骨動脈から分岐した前脊髄動脈は、延髄腹側で合流して単一の血管となる (Standring et al., 2021)。
- 脊髄前面の正中溝に沿って頭尾側方向に走行し、前正中裂に位置する (Netter, 2019)。
- 分節的に前根動脈(radicular arteries)からの吻合枝を受け、脊髄への血液供給を維持している。
- 前根動脈との吻合は、特に頚部および腰仙部において発達が著しい (Drake et al., 2020)。
血液供給領域の詳細
- 前2/3の脊髄(前角、側索、前索)への主要な血液供給を担っている (Moore et al., 2022)。
- 延髄においては、錐体交叉、内側毛帯、内側縦束などの重要な伝導路を栄養している。
- 舌下神経核および前角細胞への血液供給も担当している (Snell, 2019)。
臨床的意義と病態
- 前脊髄動脈症候群:血管閉塞により、以下の症状が出現する (Rubin and Safdieh, 2016)。
- 運動機能:病変部位以下の両側性対麻痺(錐体路障害)が生じる。
- 感覚機能:病変部位以下の痛覚・温度覚の消失(脊髄視床路障害)が起こる。
- 深部感覚は後脊髄動脈支配のため保たれており、これがBrown-Séquard症候群との重要な鑑別点となる。
形態計測学的特徴
- 血管径は領域により大きく異なり、頚髄部で約500μm、胸髄部で340μm、腰髄部では1,000μm以上に及ぶ (Thron, 2016)。
- この径の変化は、各領域における血流需要と前根動脈からの側副血行の発達度を反映している。
参考文献
- Drake, R.L., Vogl, W. and Mitchell, A.W.M. (2020) Gray's Anatomy for Students, 4th ed. Philadelphia: Elsevier.