前側頭枝(外側後頭動脈の) Rami temporales anterior arteriae occipitalis lateralis

大脳半球内側面の動脈
前側頭枝(外側後頭動脈の)は、外側後頭動脈から分岐し、側頭葉前方部と後頭葉前部の皮質へ血液を供給する重要な枝である。その閉塞は記憶障害や聴覚認知障害、言語理解困難を引き起こす可能性があるが、側副血行路の発達により単独閉塞での重篤症状は比較的少ない。血管造影で後大脳動脈造影時に明瞭に描出され、分枝パターンが診断指標となる。
解剖学(起始・走行・分布)
1) 定義と位置づけ
- 前側頭枝(外側後頭動脈の)(Rami temporales anteriores arteriae occipitalis lateralis)は、後大脳動脈(PCA)系の皮質枝のうち、側頭葉前部(前側頭皮質)方向へ向かう枝群として扱われる。実際の分枝様式は個人差が大きく、外側後頭動脈(arteria occipitalis lateralis)(PCA の皮質枝)から分岐して、側頭極〜前側頭回外側面の皮質へ灌流を与える(Standring, 2021; Rhoton, 2002)。
- 「前側頭枝」という名称は、(1)PCA の側頭枝(temporal branches)の一部として記載されることもあれば、(2)外側後頭動脈から派生する前方行枝として記載されることもあり、教科書や図譜での呼称揺れが起こりやすい領域である(Standring, 2021; Osborn, 2018)。
2) 起始(起源血管)と分枝
- 起始:典型的には PCA の皮質枝である外側後頭動脈から分岐する(本項の命名に対応)。近接して**後側頭枝(posterior temporal branches)や後頭枝(occipital branches)**が出るため、血管造影では分枝の前後関係と皮質走行で同定する(Osborn, 2018)。
- 分枝:単一の太い幹として出る場合も、複数の細枝として束状に出る場合もある。側頭葉外側面の皮質枝は互いに吻合し、さらに **中大脳動脈(MCA)下終末枝(inferior trunk / inferior terminal branches)**との境界域で吻合を作り得る(Rhoton, 2002; Standring, 2021)。
3) 走行と解剖学的ランドマーク
- 外側(テント上)皮質枝として、側頭葉外側面の軟膜下(pial)を前方へ走り、側頭極(temporal pole)近傍・上/中/下側頭回の前方領域へ枝を送る(Standring, 2021)。
- 近傍ランドマーク:
- **側脳室下角(temporal horn)**の外側(皮質側)領域に相当する皮質面の血管として捉えると、臨床画像(CT/MRI)で病変領域をイメージしやすい(Osborn, 2018)。
- シルビウス裂遠位部のMCA皮質枝(側頭極枝・前側頭動脈など)との境界域(watershed)を形成し得る(Rhoton, 2002)。
4) 灌流領域(機能局在の観点)
- 主な灌流領域:側頭極〜前側頭皮質(特に外側面)。優位半球では、側頭葉前部は語義(意味記憶)・語の同定に関わるネットワークとも関連し、非優位半球では情動・社会認知関連の側頭極ネットワークが強調される(Ropper & Samuels, 2019)。
- ただし、側頭葉前方は **MCA 系(前側頭動脈・側頭極枝)**の寄与も大きく、実臨床では「PCA 系単独の前側頭枝閉塞」で典型的な皮質症候が前面に出ないことがある(Caplan, 2016; Osborn, 2018)。
変異・吻合と側副血行
1) 変異の要点
- PCA 皮質枝は変異が多く、外側後頭動脈そのものの発達度、前方への延長、側頭枝の本数・太さは個体差が大きい(Rhoton, 2002)。