中大脳動脈の上終末枝 Rami terminales superiores arteria cerebri medii
解剖学的特徴
- 中大脳動脈の上終末枝(M4区)は、シルビウス裂から出て、大脳皮質表面に広がる終末血管群である (Rhoton, 2002)。
- これらの血管は、軟膜下腔を走行し、大脳皮質の上部領域に分布する (Ugur et al., 2006)。
- 血管径は約0.5-1.5mm程度であり、皮質枝として脳実質に垂直に進入する (Ono et al., 2018)。
主要分枝と支配領域
- 外側眼窩前頭動脈:前頭葉眼窩部外側の血液供給を担当する (Yasargil, 1984)。
- 前頭前野動脈:前頭前野(ブロードマン8、9、10野)への主要な血液供給を行う。
- 中心前溝動脈:一次運動野の外側部を灌流する。
- 中心溝動脈(ローランド動脈):運動野と体性感覚野の主要血管である (Gibo et al., 1981)。
- 中心後溝動脈:体性感覚野後部の血液供給を担う。
- 前頭頂動脈:上頭頂小葉の灌流を担当する。
- 後頭頂動脈:角回と縁上回への血液供給を行う。
臨床的意義
- これらの血管の閉塞は、対応する皮質領域の機能障害を引き起こす (Tatu et al., 2012):
- 中心溝動脈領域:片麻痺や感覚障害が出現する。
- 前頭前野動脈領域:遂行機能障害を呈する。
- 後頭頂動脈領域:視空間認知障害が生じる。
- 血管攣縮や塞栓による急性閉塞は、対応する領域の脳梗塞を引き起こす可能性が高い (Kumral et al., 2004)。
- これらの血管は側副血行路が乏しく、閉塞時の代償機能が著しく制限される。
画像診断
- 脳血管造影では、シルビウス裂に沿って扇状に広がる特徴的な血管像として描出される (Grand et al., 2016)。
- MRAやCTAでも同定可能であるが、微細な末梢枝の評価には従来の血管造影が最も有用である。