眼窩上動脈 Arteria supraorbitalis
眼窩上動脈は、眼動脈の終末枝の一つであり、その解剖学的特徴と臨床的重要性について、最新の研究知見を含めて以下に記述します(Gray et al., 2020; Standring, 2021)。
1. 解剖学的特徴
- 起始:眼動脈の末端部で、滑車上動脈とともに眼動脈の2本の終末枝として分岐します(Hayreh, 2006)。
- 走行:眼窩内を上壁(眼窩蓋)に沿って前方に進み、上直筋と上眼瞼挙筋の上を通過します(Erdogmus and Govsa, 2007)。
- 出口:眼窩上縁の眼窩上切痕(または眼窩上孔)を通過して前頭部に出ます(Tubbs et al., 2016)。
- 分布:
- 前頭部の皮膚、前頭筋、前頭骨骨膜に分布する上行枝を出します(Kleintjes, 2007)。
- 骨膜枝(ramus periostalis):前頭骨の骨膜に分布します。
- 双頭筋枝(ramus diploicus):前頭骨の板間静脈洞と連絡します(Hwang et al., 2015)。
- 吻合:顔面動脈の分枝である上行眼窩枝、側頭動脈の前頭枝と吻合し、前頭部の側副血行路を形成します(Yu et al., 2018)。
2. 臨床的意義
- 外傷:眼窩上切痕部は比較的浅い位置にあるため、前頭部外傷で損傷を受けやすく、出血の原因となります(Whitnall, 2018)。
- 顔面再建手術:前頭部皮弁形成の際に考慮すべき重要な血管です(Houseman et al., 2014)。
- 偏頭痛:眼窩上神経と伴行するため、眼窩上神経ブロックの際に考慮される解剖学的指標となります(Ashkenazi and Blumenfeld, 2013)。
- 眼窩上神経痛:神経に沿って走行するため、神経痛の治療に影響を与える可能性があります(Evans and Pareja, 2009)。
- 頭蓋外-頭蓋内吻合:外頸動脈系と内頸動脈系を連結する重要な側副路を形成し、脳虚血性疾患において重要な役割を果たします(Geibprasert et al., 2013)。
眼窩上動脈は、顔面の血液供給において重要な役割を果たすだけでなく、脳血管障害における側副血行路としても臨床的に重要です。また、顔面の美容外科手術や頭部外傷の治療においても考慮すべき重要な解剖学的構造です(Tian et al., 2016; Shimizu et al., 2013)。
3. 参考文献
書籍
- Gray, H., Standring, S., Anand, N., et al. (2020) Gray's Anatomy: The Anatomical Basis of Clinical Practice. 42nd edn. London: Elsevier. - 解剖学の標準的な教科書で、眼窩上動脈の詳細な解剖学的記述を含む。
- Standring, S. (2021) Gray's Anatomy: The Anatomical Basis of Clinical Practice. 43rd edn. Edinburgh: Elsevier. - 最新版の解剖学書で、眼窩上動脈の臨床的意義についても言及している。
- Tubbs, R.S., Shoja, M.M. and Loukas, M. (2016) Bergman's Comprehensive Encyclopedia of Human Anatomic Variation. New Jersey: John Wiley & Sons. - 解剖学的変異に関する包括的な百科事典で、眼窩上動脈の解剖学的バリエーションについて詳述している。