肺動脈幹;肺動脈

肺動脈幹は、右心房から左右の肺動脈へと続く部分で、分岐部までの肺動脈を指します。肺動脈幹は右心室の動脈円錐から左第3肋骨の胸骨近くで始まり、約5cmの長さで心膜腔を通過します。これはやや左に向かい、頭背側でT字型に分岐し、2本の肺動脈に分かれます。肺動脈幹の両側には2本の冠状動脈が走っています。肺動脈幹の始部は大動脈口の前左側、中部は上行大動脈の左側、分岐部は大動脈弓の凹部に位置しています。

日本人のからだ(村上 弦 2000)によると

表記は区域気管支に準じます。肺動脈枝は末梢で原則として気管支に伴行しますが、肺門から区域枝分岐のレベルまでは気管支とは別の(独立した)変異を示します。上葉では、亜区域枝レベルでも気管支分岐と一致しないため、その結果、1つの亜区域に2つの亜区域動脈の支配がしばしば見られます。

肺動脈の起始異常,その他

右肺動脈の上行大動脈異常起始症は、一側肺動脈全体の変異の一つです。日本では20余例の乳児手術例と40余例の剖検例があります(野々山ら,1994)。起始異常は75%が右側で、多くが動脈管開存(PDA)を合併しています(野々山ら,1994)。

肺の一部が大動脈の直接枝によって濯流される変異を肺分画症と言います。肺分画症には腹腔動脈枝や腋窩動脈枝が参加する例もあります。

肺内の動静脈吻合が発達すると肺動静脈痩あるいは肺動静脈奇形と呼ばれます。多くは成人で発見され、中葉、下葉など局所性に日本で190例余りの報告があります。また、ファロー四徴症では気管支動脈と肺循環の吻合が発達し、主要大動脈肺動脈側副路と呼ばれます(佐々木ら,1989 ; 磯田ら,1992)。左胃動脈の1枝が横隔膜上で怒張して左肺静脈V⁵に連絡する例や、右冠状動脈が肺動脈幹から起こる例が報告されています(村手ら,1989 ; 藤川ら,1975)。

右肺動脈左房交通は日本で7例の報告があります。右上下気管支分岐に憩室様の異常気管支を伴います。右下葉欠損をはじめとする肺の分葉異常も伴います(高尾,1989)。

Pulmonary artery sling (Vascular sling)と呼ばれる稀な変異もあります。右肺動脈から起始した左肺動脈が気管と食道の間を迂回します(図112)。1987年までに日本で14例の報告があり、しばしば動脈管開存などの心血管奇形や気管支異常を合併します。長期生存例はまれです(高尾,1989 ; 堀越ら,1990)。

肺動脈に起始する冠状動脈や冠状動脈肺動脈痩の報告も少なくありません(小林ら,1988 ; 大滝ら,1994)。また、冠動脈肺動脈起始症には気管支動脈冠動脈吻合を伴うことがあります(村田升ら,1992)。

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図112 新生児(女,生後46日)手術例にみられたPulmonary artery sling (堀越ら, 1990)

図112 新生児(女,生後46日)手術例にみられたPulmonary artery sling

大動脈中隔欠損

大動脈は上行部、弓部、胸部、腹部に分けられ、左心室から始まり、腕頭動脈や肋間動脈などを分岐します。肺動脈幹は右心室から始まり、左右の肺動脈へと分岐し、2本の冠状動脈が存在します。