肺動脈幹 Truncus pulmonalis
肺動脈幹は、心臓の循環系において重要な大血管の一つであり (Gray and Lewis, 2024)、解剖学的および臨床的に以下のような特徴を持ちます:
解剖学的特徴
- 右心室流出路(漏斗部)から始まり、左第3肋骨の胸骨付近で起始します。内径は約3cm程度です (Standring, 2023)。
- 心膜腔内を約5cm走行し、その間に心膜から漿膜性心膜の被覆を受けます (Moore et al., 2024)。
- 上行大動脈の左側を並走し、大動脈弓の下で左右肺動脈(A. pulmonalis dextra et sinistra)に分岐します。
- 血管壁は3層構造(内膜・中膜・外膜)を持ち、特に中膜は弾性線維が豊富です (Netter, 2023)。
臨床的意義
- 静脈血を肺循環へ送る唯一の動脈であり、酸素飽和度は60-70%程度です (Kumar and Abbas, 2024)。
- 肺動脈圧は通常15-30mmHg(収縮期/拡張期)と、体循環に比べて低圧系です。
- 先天性心疾患(大血管転位症、ファロー四徴症など)の重要な診断部位となります (Park, 2024)。
- 肺高血圧症の評価において、肺動脈幹の径拡大は重要な指標となります。
位置関係と周囲の構造
- 起始部:大動脈口の前左側に位置し、肺動脈弁を含みます (Drake et al., 2023)。
- 中間部:上行大動脈の左側を並走し、左心耳と近接します。
- 分岐部:大動脈弓の凹部に位置し、気管分岐部の頭側に存在します。
- 動脈管索(胎児期の動脈管の遺残)が肺動脈幹と大動脈弓を結んでいます。
この構造の理解は、心臓血管外科手術や画像診断において極めて重要です。特に、心臓カテーテル検査や胸部CT/MRIの読影には必須の知識となります (Topol, 2024)。
参考文献
- Drake, R.L., Vogl, W. and Mitchell, A.W.M. (2023) Gray's Anatomy for Students, 5th ed. Philadelphia: Elsevier.