動脈 Arteriae
動脈は心臓から全身に血液を送り出す血管系の中核をなす構造です。心室の収縮によって拍出された血液を高圧で末梢組織へ輸送し、組織の代謝に必要な酸素と栄養素を供給します(Moore et al., 2018; Standring, 2020)。

J0554 (成人の心筋内の動脈の分岐の図)
解剖学的構造
血管壁の三層構造
- 内膜(Tunica intima):内皮細胞の単層と内弾性板から構成され、血液との直接的な接触面を形成します(Ross & Pawlina, 2020)
- 中膜(Tunica media):平滑筋細胞と弾性線維が豊富で、血管の収縮・拡張機能と弾性を担います。動脈では特に厚く発達しています(Standring, 2020)
- 外膜(Tunica externa/adventitia):結合組織、神経線維、栄養血管(vasa vasorum)を含み、血管壁を支持します(Ross & Pawlina, 2020)
動脈の分類
- 弾性動脈(Elastic arteries):大動脈や肺動脈など、心臓に近い大血管。中膜に弾性線維が豊富で、心室収縮時のエネルギーを蓄え、拡張期に血流を維持します(Boron & Boulpaep, 2017)
- 筋性動脈(Muscular arteries):末梢への血流分配を調節する中型動脈。中膜の平滑筋が発達し、血管運動による血流調節が可能です(Standring, 2020)
- 細動脈(Arterioles):末梢抵抗血管として機能し、組織レベルでの血流と血圧を精密に調節します(Boron & Boulpaep, 2017)
生理学的特徴
- 高い血圧に耐える厚い血管壁構造を持ちます(収縮期血圧約120mmHg)(Hall, 2020)
- 弾性線維により拍動性の血流を連続的な血流に変換します(Windkessel効果)(Boron & Boulpaep, 2017)
- 自律神経系による血管運動の調節を受けます(Hall, 2020)
- 体表近くを走行する動脈では拍動を触知できます(橈骨動脈、頸動脈、大腿動脈など)(Moore et al., 2018)
- 全身循環では酸素化された血液を運びますが、肺循環の肺動脈は例外的に静脈血を運びます(Hall, 2020)
臨床的意義