房室結節 Nodus atrioventricularis

J0536 (右心室の心房室束とその分岐)
解剖学的構造と位置
房室結節(AV node)は心臓の刺激伝導系を構成する特殊心筋組織の一つで、以下の解剖学的特徴を持ちます(Anderson et al., 2009):
- 心房中隔の下部、右心房側に位置する小さな楕円形の組織塊(約5×3×1mm)
- Koch三角(Triangle of Koch)内に存在:この三角形は冠状静脈洞口、三尖弁中隔尖付着部、腱索(Todaro腱)によって囲まれる解剖学的ランドマーク(Anderson & Ho, 1998)
- 卵円窩の下方かつ前方、冠状静脈洞口の前上方に位置
- 右冠動脈(約90%)または左回旋枝(約10%)の房室結節動脈によって栄養される(James, 1961)
組織学的特徴
- P細胞(ペースメーカー細胞):自動能を持つ小型の細胞(Irisawa et al., 1993)
- 移行細胞:房室結節の主要部分を構成し、刺激伝導の遅延に関与
- プルキンエ様細胞:His束への移行部に存在
- 豊富な結合組織と複雑な細胞配列により、伝導速度が遅い(約0.05m/秒)(Meijler & Janse, 1988)
生理学的機能
房室結節は心臓の電気的活動において重要な役割を果たします(Zipes & Jalife, 2014):
- 刺激伝導の中継点:洞房結節(SA node)から発生した電気刺激を受け取り、His束を介して心室へ伝導
- 生理的遅延:約0.1秒の伝導遅延(AV delay)を生じさせ、心房収縮と心室収縮の適切なタイミングを確保。これにより心房から心室への効率的な血液充填が可能となる(Kusumoto & Goldschlager, 1996)
- フィルター機能:心房細動や心房粗動時に、過度に速い心房興奮が心室に伝わるのを制限し、心室を保護
- 二次的ペースメーカー:洞房結節が機能不全に陥った場合、房室結節は固有調律(40-60回/分)で心拍動を維持し、生命維持に重要な役割を果たす(Mangrum & DiMarco, 2000)