左房室口 Ostium atrioventricularis sinistrum

J0533 (背尾側からの最大に収縮した心臓の表面筋層の図)

J0534 (心室の筋組織:固定されない、取り外された標本、少し模式的な背尾図)

J0545 (強く拡大した心臓の右心室:右側と上方からの図)

J0546 (拡大した心臓の左室(左心室):腹部の左側からの図)
解剖学的構造
左房室口は、左心房と左心室を隔てる線維性の房室口で、心臓の左側における血液の通過孔です。この開口部は左房室弁(僧帽弁、valva atrioventricularis sinistra)によって守られており、成人では周囲長約9-10cm、面積約4-6cm²の楕円形を呈しています(Gray et al., 2020)。
左房室口の解剖学的特徴:
- 左心房の下方と左心室の上方(流入路)の間に位置します。
- 僧帽弁は前尖(弁尖前部)と後尖(弁尖後部)の2つの主要な弁尖から構成されています(Anderson et al., 2020)。
- 弁尖は腱索(chordae tendineae)を介して乳頭筋(musculi papillares)に接続されています。
- 左心室には前乳頭筋と後乳頭筋の2つの乳頭筋が存在し、弁の機能を支えています(Ho, 2002)。
- 弁輪(annulus fibrosus)は線維性の支持構造を形成し、弁尖の付着部となっています。
生理学的機能
左房室口と僧帽弁は心臓の左側における一方向性の血流を確保する重要な役割を果たしています(Levick, 2018):
- 心房収縮期(心房のキック):左心房の収縮により、血液が左房室口を通って左心室に流入します。
- 心室拡張期:左心室の弛緩により、圧較差が生じ、肺静脈から左心房を経て左心室へ血液が受動的に流入します。
- 心室収縮期:左心室の収縮時、乳頭筋と腱索の働きにより僧帽弁が閉鎖し、血液の左心房への逆流(僧帽弁逆流)を防ぎます。
- 正常な僧帽弁の閉鎖により、第一心音(S1)が発生します。
臨床的意義
左房室口と僧帽弁の病態は、多くの重要な心疾患の原因となります:
- 僧帽弁狭窄症(Mitral stenosis):左房室口が狭窄し、左心房から左心室への血流が制限されます。主な原因はリウマチ熱の後遺症です。症状として呼吸困難、心房細動、肺うっ血などが見られます(Nishimura et al., 2014)。
- 僧帽弁閉鎖不全症(Mitral regurgitation):僧帽弁の閉鎖が不完全なため、心室収縮時に血液が左心房に逆流します。原因は弁の変性、腱索断裂、乳頭筋機能不全、感染性心内膜炎などがあります(Otto et al., 2020)。