後尖(三尖弁の)Cuspis posterior (Valva tricuspidalis)

J0540 (収縮した心室:心房を除去した後の基盤、弁が閉じている図)

J0541 (拡張期の心臓:おおよそ横隔面に平行な図)

J0545 (強く拡大した心臓の右心室:右側と上方からの図)
解剖学的特徴
三尖弁の後尖は、右房室口を構成する三尖弁の3つの弁尖(前尖、中隔尖、後尖)のうちの1つであり、以下のような解剖学的特徴を持ちます(Gray et al., 2020; Moore et al., 2018):
- 位置と形態:後尖は三尖弁輪の後方、すなわち心室の横隔面側に位置し、前尖と中隔尖の間に存在します。3つの弁尖の中では最も小さいことが多いです(Standring, 2020)。
- 弁尖の構造:後尖は心内膜から形成される薄い線維性の構造で、弁輪から心室腔内に突出しています。弁尖の自由縁には腱索が付着します(Netter, 2018)。
- 腱索と乳頭筋の関係:後尖には主に後乳頭筋から伸びる腱索が付着しますが、前乳頭筋からの腱索も一部関与することがあります。これらの腱索は心室収縮時に弁尖が心房側に翻転するのを防ぎます(Anderson et al., 2000)。
- 交連部:後尖は前尖との間に前後交連を、中隔尖との間に後中隔交連を形成します(Silver et al., 1971)。
機能
- 弁機能:心室拡張期には後尖は開放し、右心房から右心室への血液流入を可能にします。心室収縮期には、他の2つの弁尖とともに閉鎖し、腱索と乳頭筋の作用により血液の右心房への逆流を防ぎます(Levick, 2013)。
- 協調運動:後尖は前尖、中隔尖と協調して機能し、完全な弁の閉鎖を実現します。この協調運動は正常な右心機能の維持に不可欠です(Otto, 2013)。
臨床的意義
- 三尖弁閉鎖不全症:後尖の器質的異常(リウマチ性心疾患、感染性心内膜炎、外傷など)や機能的異常(弁輪拡大、乳頭筋機能不全、腱索断裂など)により、三尖弁閉鎖不全が生じ、右心房への血液逆流が起こります(Nishimura et al., 2014)。
- Ebstein奇形:先天性心疾患の一つで、三尖弁尖(特に中隔尖と後尖)が心室中隔側に下方偏位する疾患です。後尖の異常な付着により右心室の機能的容積が減少します(Attenhofer Jost et al., 2005)。
- 感染性心内膜炎:薬物静注使用者や免疫不全患者では、三尖弁(特に後尖を含む)に細菌性疣贅が形成されやすく、弁破壊や敗血症性肺塞栓を引き起こすことがあります(Habib et al., 2015)。
- 心エコー評価:経胸壁心エコー図や経食道心エコー図により、後尖の形態、可動性、腱索の状態、逆流の程度を評価することが可能です(Lancellotti et al., 2010)。
- 外科的治療:重度の三尖弁閉鎖不全症に対しては、弁形成術(弁輪縫縮術、腱索再建術など)や弁置換術が施行されます。後尖の修復は弁形成術の重要な要素となります(McCarthy & Vricella, 2010)。
参考文献
- Anderson, R. H., Razavi, R., & Taylor, A. M. (2004). Cardiac anatomy revisited. Journal of Anatomy, 205(3), 159–177.ー心臓解剖学の詳細なレビュー論文。
- Attenhofer Jost, C. H., Connolly, H. M., Dearani, J. A., Edwards, W. D., & Danielson, G. K. (2005). Ebstein's anomaly. Circulation, 115(2), 277–285.ーEbstein奇形の病態と治療に関する包括的レビュー。