
J0634 (腹部およびやや左側からの分娩後の胎児の血液循環を示す図)
卵円孔は、胎生期から出生時まで機能する心房中隔の生理的な孔であり、右心房と左心房を連絡する重要な構造です。この孔は、胎児循環において酸素化された血液を効率的に体循環へ送るための迂回路として機能します。
心房中隔の形成は、胎生4週頃から始まります (Moore et al., 2019; Sadler, 2018)。原始心房の正中部がくびれ、その上面を心球・動脈幹がのりこえることで心房中隔の形成が開始されます。
一次中隔(septum primum)の形成: 両側の心耳が膨隆するにつれ、内部では正中矢状位の三日月状のヒダが頭側から尾側へ張り出します (Sadler, 2018)。この一次中隔の下縁は、やがて心室間の前・後心内膜クッション(endocardial cushion)に連なります。一次中隔の下縁には心内膜性の肥厚が現れ、その下の左右心房間の交通路を**一次孔(ostium primum)**と呼びます。
二次孔(ostium secundum)の形成: 一次孔が閉鎖する前に、一次中隔の上部に細胞死(アポトーシス)によって孔があきます。これを二次孔と呼び、この孔は急速に拡大します。一方、一次中隔の肥厚縁および前後クッションの融合によって一次孔は完全に閉鎖し、左右の房室口が分離します (Moore et al., 2019)。
二次中隔(septum secundum)の形成: 胎生5週頃、一次中隔の右側で左静脈弁(左洞房弁)との間(Spatium interseptovalvulare)に、筋性の厚い鎌状のヒダが出現します。これを二次中隔と呼びます。二次中隔の下縁は、旧一次中隔肥厚縁または左洞房弁などと連合して、**卵円孔(foramen ovale)**の枠組みを構成します。
卵円孔弁の形成: 二次孔が生じた後の一次中隔は、卵円孔弁(valvula foraminis ovalis)として、卵円孔の左側に弁膜状の薄い構造として残存します。この弁は、左心房側に位置し、右心房からの血流を一方向性に左心房へ導く役割を果たします (Sadler, 2018)。
胎生期を通じて、胎盤で酸素化された血液は臍静脈を経て下大静脈に注ぎます。下大静脈からそそぐ血流の大部分(約60-70%)は、下大静脈弁(Eustachian valve)によって卵円孔方向へ誘導され、卵円孔を介して左心房に流入します (Moore et al., 2019)。この機構により、酸素化された血液は肺循環を迂回し、直接左心房から左心室、大動脈を経て脳および上半身へ優先的に供給されます。
一方、上大静脈からの還流血(酸素飽和度が低い)は、主に右心房から右心室、肺動脈を経て動脈管(ductus arteriosus)を通り、下行大動脈へ流れます。
機能的閉鎖: 出生直後、新生児の最初の呼吸により肺が拡張すると、肺血管抵抗が急激に低下し、肺血流量が著明に増加します。これに伴い、左心房への還流量が増加し、左心房圧が右心房圧を上回るようになります(圧較差の逆転)。同時に、臍帯結紮により臍静脈からの還流が停止し、右心房圧はさらに低下します (Moore et al., 2019)。
この圧較差の逆転により、卵円孔弁(一次中隔)は二次中隔(卵円孔縁)に圧しつけられ、卵円孔は機能的に閉鎖します。この機能的閉鎖は、通常出生後数時間以内に生じます。
解剖学的閉鎖: その後、数ヶ月から数年かけて、卵円孔弁と卵円孔縁の間に線維性組織が増殖し、両者が器質的に癒合します。この解剖学的閉鎖は、通常生後1歳までに約70-75%の新生児で完了しますが、完全な閉鎖には個人差があります (Hagen et al., 1984)。
閉鎖後の痕跡として、成人の心房中隔右側面には浅い陥凹である**卵円窩(fossa ovalis)が認められ、その上縁には弓状の隆起である卵円窩縁(limbus fossae ovalis)または中隔鎌(falx septi)**が観察されます。これは二次中隔の遺残です。