膜性部(心室中隔の)Pars membranacea septi interventricularis

J0538 (心室の基部と中部の三分の一の間の2つの心臓の収縮期冠状断:長軸に対して垂直に、先端領域からの図)

J0539 (心室の基部と中部の三分の一の間の2つの心臓の拡張期冠状断:長軸に対して垂直に、先端領域からの図)

J0541 (拡張期の心臓:おおよそ横隔面に平行な図)

J0547 (大動脈弁を広げた図)
解剖学的特徴
心室中隔の膜性部は、心室中隔の上部に位置する小さな領域で、筋性部とは異なり線維性組織から構成される特殊な構造です(Anderson et al., 2000)。以下の解剖学的特徴を持ちます:
- 位置と境界:大動脈弁の右冠尖と無冠尖の直下に位置し、大動脈流出路の上方に接しています。右心室側では三尖弁の中隔尖付着部の上方にあり、左心室側では僧帽弁前尖の基部に近接しています(Soto et al., 1989)
- 構造:非常に薄い線維性組織(約1-2mm)で構成され、心内膜に由来します。筋組織をほとんど含まないため、周囲の筋性中隔とは明確に区別されます(Webb et al., 1998)
- 大きさ:通常、長さ約10-15mm、高さ約5-8mmの小さな三角形または四角形の領域です(Anderson et al., 2000)
- 区分:房室部(atrioventricular part)と心室間部(interventricular part)の2つの領域に分けられることがあります。房室部は三尖弁中隔尖の付着部より上方にあり、右房と左室を隔てています(Van Praagh et al., 1991)
- 伝導系との関係:房室結節から房室束(His束)が膜性部の後下縁を通過し、左脚と右脚に分岐します。このため電気伝導において重要な役割を果たします(Kurosawa and Becker, 1985)
発生学的背景
膜性部は胎生期の心臓発生過程において、球心室ひだ(bulboventricular fold)、心内膜床組織、および大動脈肺動脈中隔の一部が融合することで形成されます(Webb et al., 1998)。発生異常がある場合、心室中隔欠損症(VSD)の最も一般的な部位となります(Anderson et al., 2000)。
臨床的意義
- 心室中隔欠損症(VSD):膜性部は先天性心疾患の中で最も頻度の高い心室中隔欠損症の好発部位です。膜性部VSDは全VSDの約70-80%を占めます(Penny and Vick, 2011)。小さな欠損は自然閉鎖することがありますが、大きな欠損では左右短絡により肺高血圧症や心不全を引き起こすため、外科的閉鎖が必要となります(Hoffman and Kaplan, 2002)
- 感染性心内膜炎:膜性部VSDがある場合、乱流により感染性心内膜炎のリスクが高まります。特に欠損孔周囲の心内膜が易感染性となります(Gersony et al., 1993)
- 伝導障害:膜性部は房室伝導系が通過する部位であるため、この領域の病変(外傷、手術、感染、変性疾患など)は房室ブロックを引き起こす可能性があります。心室中隔欠損症の外科的修復時には、伝導系の損傷を避けるため慎重な操作が必要です(Kurosawa and Becker, 1985)
- 大動脈弁逸脱:膜性部VSDが存在する場合、特に右冠尖または無冠尖が欠損孔内に逸脱し、大動脈弁閉鎖不全症を合併することがあります(Tatsuno et al., 1973)
- 外科的考慮事項:心室中隔欠損症の閉鎖術では、膜性部周囲の重要構造(伝導系、大動脈弁、三尖弁)に注意を払いながらパッチ閉鎖が行われます。経右房アプローチまたは経肺動脈アプローチが一般的です(Backer et al., 2013)
- 画像診断:心エコー検査(特に経食道心エコー)、CT、MRIにより膜性部の評価が可能です。カラードプラ法では欠損孔を通る血流シグナルとして検出されます(Sutherland et al., 2005)
膜性部は小さいながらも、心臓の構造的および機能的統合性において重要な役割を果たしており、その病変は重大な臨床的影響を及ぼす可能性があります。
参考文献