門(副腎の)Hilum glandulae suprarenalis

J775.png

J0775 (右側の副腎:前方からの図)

J776.png

J0776 (左側の副腎:前方からの図)

解剖学的特徴

腎上体門(副腎門、hilum glandulae suprarenalis)は、副腎の内側面(内側縁、medial margin)に位置する陥凹部であり、副腎静脈(suprarenal vein)、副腎動脈の枝、交感神経節前線維(preganglionic sympathetic fibers)、およびリンパ管が出入りする重要な解剖学的構造です (Netter, 2018; Standring, 2021)。この門は、副腎実質と後腹膜組織との主要な連絡部位として機能し、副腎の血管支配および神経支配の中心的役割を担っています (Moore et al., 2022)。

副腎門の形態は左右で明確な相違を示します。右副腎(right suprarenal gland)では、前面から内側に向かって比較的浅い溝状(shallow groove)の陥凹として観察され、その位置は副腎のやや前内側部に認められます (Netter, 2018)。一方、左副腎(left suprarenal gland)では、より明瞭で深い陥凹(distinct and deep depression)として観察され、副腎の内側縁に沿って明確な境界を形成しています (Moore et al., 2022)。この形態学的差異は、左右の副腎の位置関係および周囲臓器(右側では肝臓、左側では膵臓・脾臓)との解剖学的関係の相違に起因しています (Standring, 2021)。

副腎門から出る副腎静脈は、左右で異なる走行を示します。右副腎静脈(right suprarenal vein)は短く、直接下大静脈(inferior vena cava)に流入するのに対し、左副腎静脈(left suprarenal vein)はより長く、左腎静脈(left renal vein)を介して下大静脈に注ぎます (Standring, 2021; Young and Kebebew, 2020)。この解剖学的配置は、臨床的処置における重要な考慮事項となります。

臨床的意義

副腎門は、多くの内分泌学的および外科的処置において極めて重要な解剖学的ランドマークとなります。特に原発性アルドステロン症(primary aldosteronism)の診断において実施される副腎静脈サンプリング(adrenal venous sampling, AVS)では、副腎門から出る副腎静脈への正確なカテーテル挿入が不可欠であり、この手技の成功率は術者の副腎門の解剖学的理解に大きく依存します (Young and Kebebew, 2020)。AVSは、左右の副腎からのアルドステロン分泌の偏在性を評価するゴールドスタンダード検査であり、副腎門の位置同定が手技の成否を左右します (Rossi et al., 2014)。

副腎腫瘍(adrenal tumors)の外科的切除において、副腎門の血管処理は手術の最も重要なステップの一つです。腹腔鏡下副腎摘出術(laparoscopic adrenalectomy)では、副腎門から出る副腎静脈の早期同定と結紮が、手術の安全性と成功に直結します (Walz et al., 2019)。特に褐色細胞腫(pheochromocytoma)の切除では、副腎門の静脈を早期に処理することで、腫瘍操作によるカテコールアミンの大量放出を防ぎ、術中の血行動態の安定性を維持できます (Conzo et al., 2016)。右副腎門は下大静脈に近接しているため、右副腎摘出術では特に慎重な血管処理が要求されます (Walz et al., 2019)。

画像診断においても、副腎門の認識は重要です。CT(computed tomography)やMRI(magnetic resonance imaging)による副腎の評価では、副腎門における血管構造の同定が、病変の局在診断や手術計画の立案に役立ちます (Blake et al., 2006)。特に副腎静脈の走行を術前に把握することは、手術の安全性向上に寄与します。

組織学的特徴

組織学的観点から、副腎門周囲には豊富な神経組織が分布しています。特に交感神経節前線維(preganglionic sympathetic fibers)が密に分布しており、これらの神経線維は副腎髄質(adrenal medulla)のクロム親和性細胞(chromaffin cells)を直接支配しています (Mescher, 2021)。この神経支配により、副腎髄質からのカテコールアミン(catecholamines)—主にエピネフリン(epinephrine)とノルエピネフリン(norepinephrine)—の分泌が調節されています (Standring, 2021)。

副腎門を通過する交感神経線維は、脊髄の胸髄下部および腰髄上部(T10-L1レベル)に由来し、内臓神経(splanchnic nerves)を介して副腎に到達します (Standring, 2021)。これらの節前線維は、副腎髄質のクロム親和性細胞のシナプス後受容体(ニコチン性アセチルコリン受容体)と直接シナプスを形成し、ストレス応答時の急速なカテコールアミン放出を可能にしています (Mescher, 2021)。この神経内分泌機構により、闘争・逃走反応(fight-or-flight response)における生理学的適応が実現されます (Tortora and Derrickson, 2020)。

副腎門周囲の血管構造も組織学的に特徴的です。副腎静脈の壁は比較的薄く、周囲結合組織との癒着が見られることがあり、これが外科的処理を困難にする要因となることがあります (Standring, 2021)。また、副腎門領域には豊富なリンパ管網が存在し、これらは腰リンパ節(lumbar lymph nodes)へと流入します (Moore et al., 2022)。

参考文献