内側縁(副腎の)Margo medialis (Glandula suprarenalis)

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J0775 (右側の副腎:前方からの図)

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J0776 (左側の副腎:前方からの図)

副腎の内側縁は、体の正中線に面した境界部分を指します。副腎(腎上体)は腎臓の上極に位置する重要な内分泌器官で、左右で形態が異なり、それぞれ特徴的な解剖学的関係を持ちます(Standring, 2020)。

解剖学的構造

右副腎は三角錐形を呈し、内側縁は比較的短く直線的です。この内側縁は下大静脈の右後方に密接しており、前面は肝臓の裸区域に接しています(Netter, 2018)。一方、左副腎は半月形または三日月形を呈し、内側縁はより長く凹状です。左副腎の内側縁は腹部大動脈と腹腔神経節に近接し、膵臓の尾部や脾臓とも隣接関係にあります(Moore et al., 2018)。

副腎の内側縁には副腎門(hilum)が位置し、ここから副腎静脈が流出します。右副腎静脈は短く(約5mm)、内側縁から直接下大静脈に流入しますが、左副腎静脈はより長く(約20-30mm)、左腎静脈に合流します(Sahdev, 2017)。この血管解剖の非対称性は外科手術において重要な意味を持ちます。

副腎の大きさは成人で縦約5cm、横約3cm、厚さ約1cmで、重量は片側約4-5gです(Standring, 2020)。内側縁を含む副腎の表面は結合組織性の被膜で覆われ、この被膜から隔壁が内部に伸びて実質を支持しています。

組織学的構造

組織学的には、副腎は発生学的起源と機能が異なる皮質と髄質の2層構造を持ちます。皮質は中胚葉由来で全体の約80-90%を占め、外側から球状層(zona glomerulosa)、束状層(zona fasciculata)、網状層(zona reticularis)の3層に分かれます(Ross and Pawlina, 2020)。球状層は鉱質コルチコイド(主にアルドステロン)を分泌し、ナトリウムとカリウムの恒常性を調節します。束状層は糖質コルチコイド(主にコルチゾール)を産生し、糖代謝や免疫応答に関与します。網状層は副腎性アンドロゲン(デヒドロエピアンドロステロン:DHEAなど)を分泌します(Mescher, 2021)。

髄質は外胚葉由来の神経堤細胞から発生し、クロム親和性細胞(chromaffin cells)から構成されます。これらの細胞はカテコールアミン(アドレナリンとノルアドレナリン)を合成・貯蔵し、交感神経系の刺激に応答して分泌します(Young et al., 2020)。髄質は副交感神経支配を受けず、交感神経節前線維が直接クロム親和性細胞を支配する独特の神経支配様式を示します。

臨床的意義

臨床的には、内側縁の解剖学的関係は副腎手術、特に腹腔鏡下副腎摘出術において極めて重要です。経腹膜的アプローチでは、内側縁に沿って走行する副腎静脈の同定と安全な結紮・切離が手術の重要なステップとなります(Walz et al., 2006)。右副腎では下大静脈への短い流入路のため、静脈損傷のリスクが高く、慎重な剥離操作が必要です。左副腎では腎静脈への流入部を確実に処理することで、術後出血を予防できます(Liao et al., 2018)。

画像診断においても、内側縁の評価は重要です。CTやMRIでは、内側縁を含む副腎の形態、大きさ、造影パターンを評価することで、褐色細胞腫、副腎皮質腺腫、副腎癌、転移性腫瘍などの鑑別診断が可能です(Blake et al., 2017)。特に褐色細胞腫では、内側縁近傍の副腎静脈へのカテーテル挿入によるサンプリング(副腎静脈サンプリング)が、腫瘍の局在診断や機能評価に用いられます(Young et al., 2017)。

また、副腎出血や副腎梗塞では内側縁を含む副腎全体の腫大が認められ、急性副腎不全(Addison病の急性発症)の原因となることがあります(Puar et al., 2016)。原発性アルドステロン症の診断においては、副腎静脈サンプリングが左右の副腎からのアルドステロン分泌を評価する標準的方法であり、内側縁付近の副腎静脈へのカテーテル挿入技術が重要です(Rossi et al., 2014)。

参考文献