前面(副腎の)Facies anterior glandula suprarenalis

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J0775 (右側の副腎:前方からの図)

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J0776 (左側の副腎:前方からの図)

1. 解剖学的特徴

副腎の前面(Facies anterior glandula suprarenalis)は、腎臓の上極に位置する内分泌腺である副腎の前側表面を指す。副腎は後腹膜腔に位置し、その形状は左右で異なる。右副腎は三角錐状を呈し、その前面は肝臓の裸区(area nuda hepatis)に接する。下大静脈が右副腎の前内側を走行し、副腎中心静脈の主要な排流路となる(Netter, 2018; Standring, 2020)。左副腎は半月状ないし三日月状で、その前面の上部は胃の噴門部後壁に、中部は膵臓の体部後面に、下部は脾動静脈および左腎動脈に近接する(Gray and Standring, 2020)。副腎の前面は腹膜に部分的に覆われ、特に右副腎の下方部分および左副腎の下外側部分は腹膜に接している。副腎の前面と後面を区別する境界は、副腎門(hilum glandulae suprarenalis)を通る面であり、ここから副腎中心静脈が流出する(Moore et al., 2022)。

2. 組織学的構造

副腎は発生学的および機能的に異なる二つの組織、すなわち皮質(cortex)と髄質(medulla)から構成される。皮質は中胚葉由来で全副腎質量の約85-90%を占め、髄質は外胚葉由来(神経堤細胞)で残りの10-15%を構成する(Ross and Pawlina, 2019; Kierszenbaum and Tres, 2020)。

副腎皮質は外側から内側に向かって三つの機能的に異なる層に分けられる。最外層の球状帯(zona glomerulosa)は細胞が球状ないしアーチ状の集団を形成し、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系により調節されるミネラルコルチコイド(主にアルドステロン)を分泌する。この層は皮質の約15%を占める(Mescher, 2021; Young et al., 2022)。中間層の束状帯(zona fasciculata)は最も厚く皮質の約75%を占め、細胞が放射状の索状配列を呈する。この層はACTH(副腎皮質刺激ホルモン)により調節され、グルココルチコイド(主にコルチゾール)を産生する(Pawlina, 2020)。最内層の網状帯(zona reticularis)は不規則な網目状構造を示し、皮質の約10%を占める。この層は弱いアンドロゲン(デヒドロエピアンドロステロン[DHEA]およびアンドロステンジオン)を分泌する(Ross and Pawlina, 2019; Mescher, 2021)。

副腎髄質は交感神経節後ニューロンに相当するクロム親和性細胞(chromaffin cells)から構成され、カテコールアミンであるアドレナリン(エピネフリン、約80%)およびノルアドレナリン(ノルエピネフリン、約20%)を分泌する。これらの細胞は副腎皮質からの高濃度コルチゾールの影響下にあり、フェニルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ(PNMT)によりノルアドレナリンがアドレナリンに変換される(Kierszenbaum and Tres, 2020; Stevens and Lowe, 2022)。

3. 臨床的意義

副腎の前面の解剖学的理解は、画像診断および外科的介入において極めて重要である。CT検査では、正常な副腎は逆Y字型ないし逆V字型の構造として描出され、右副腎は下大静脈の後外側、左副腎は大動脈の前外側に位置する。副腎前面の理解は、副腎腫瘤の起源同定、周囲臓器への浸潤評価、および手術計画の立案に不可欠である(Sahdev, 2023; Blake et al., 2020)。

副腎疾患には機能性と非機能性の腫瘍が含まれる。機能性腫瘍としては、原発性アルドステロン症(Conn症候群)を引き起こすアルドステロン産生腺腫、クッシング症候群の原因となるコルチゾール産生腺腫、および褐色細胞腫がある。褐色細胞腫は副腎髄質由来のカテコールアミン産生腫瘍で、発作性高血圧、頭痛、発汗、動悸を引き起こす。この腫瘍は「10%の法則」として知られ、約10%が両側性、10%が副腎外性、10%が悪性、10%が家族性とされる(Young et al., 2022; Lenders et al., 2020)。非機能性腫瘍には副腎偶発腫(adrenal incidentaloma)があり、画像検査で偶然発見される1cm以上の副腎腫瘤を指す(Fassnacht et al., 2023)。

外科的アプローチにおいて、副腎前面へのアクセス方法は腫瘍の大きさと性質により選択される。腹腔鏡下副腎摘出術は現在の標準術式であり、経腹腔アプローチと後腹膜アプローチがある。経腹腔アプローチでは、右副腎には肝臓を挙上して下大静脈周囲を剥離し、左副腎には脾臓と膵尾部を内側に牽引して到達する。後腹膜アプローチは腹腔内臓器を温存できる利点がある(Walz et al., 2020; Conzo et al., 2021)。副腎癌や6cm以上の大きな腫瘍では開腹手術が選択されることが多い(Else et al., 2019)。

参考文献