下垂体 Hypophysis
解剖学的位置と構造
- 下垂体は、トルコ鞍(sella turcica)内の蝶形骨下垂体窩に位置し、硬膜由来の鞍隔膜(diaphragma sellae)に覆われている (Standring, 2021)。
- 前葉(腺性下垂体)は口腔上皮由来のラトケ嚢から、後葉(神経性下垂体)は間脳底から発生し、発生学的起源は異なる (Sadler, 2019)。
- 中間部は前葉と後葉の境界に存在し、ヒトでは退化している (Moore et al., 2023)。
形態計測学的特徴
- 成人の下垂体の大きさは横径約14mm、前後径約11mm、高さ約6mmで、重量は約0.6g (Drake et al., 2020)。
- 妊娠後期には前葉が著明に肥大し、重量は2倍以上に増加する(産褥性下垂体肥大)(Netter, 2022)。
血管支配と門脈系
- 上下垂体動脈(内頸動脈の枝)は下垂体柄外側を下行し、前葉に分布する (Snell, 2019)。
- 下垂体門脈系は視床下部からのホルモンを前葉に運搬する重要な経路である (Hall, 2021)。
- 静脈還流は両側の海綿静脈洞に流入する (Sinnatamby, 2020)。
神経支配と周囲構造
- 視床下部からの神経線維は下垂体柄を通り、後葉に直接投射する(視床下部‐下垂体路)(Young et al., 2020)。
- 海綿静脈洞内を通過する重要な構造:内頸動脈、動眼神経(CN III)、滑車神経(CN IV)、三叉神経(CN V)、外転神経(CN VI)(Schuenke et al., 2020)。
臨床的意義
- 下垂体腫瘍(特に前葉腺腫)により視交叉圧迫で両耳側半盲を呈することがある (Kumar et al., 2021)。
- 海綿静脈洞症候群では、同領域を走行する脳神経の麻痺症状が出現する (Robbins et al., 2020)。
参考文献
- Drake, R.L., Vogl, W. & Mitchell, A.W.M. (2020) Gray's Anatomy for Students, 4th ed. Elsevier.