左三角間膜(肝臓の)Ligamentum triangulare sinistrum hepatis

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J0708 (腹膜の折り返し部分と肝臓:前方からの図)

基本解剖学

左三角間膜は、肝臓の左葉と横隔膜を結ぶ三角形状の腹膜ヒダであり、肝冠状間膜の左側端に位置します(Skandalakis et al., 2004)。解剖学的には、前後の腹膜葉が合流してできる二重の漿膜構造を持ち、その間には疎性結合組織が存在します(Gray and Standring, 2021)。この間膜は肝臓の左葉を支持する役割を果たし、特に立位では肝臓の下垂を防ぐ機能があります(Couinaud, 1999)。

左三角間膜の基部は肝冠状間膜の左端から始まり、左方に向かって横隔膜下面に付着します(Netter, 2019)。その尖端は肝臓の左葉外側区域の上縁に達し、横隔膜との間に強固な線維性結合を形成します(Moore et al., 2018)。間膜内には小血管や神経線維が走行し、肝臓と横隔膜の間の解剖学的連続性を維持しています(Sinnatamby, 2011)。

臨床的意義

臨床的には、肝臓手術時に重要な指標となり、特に肝左葉切除術においては左三角間膜の剥離が必須となります(Bismuth, 2013)。また、肝移植手術においても、ドナー肝摘出時やレシピエントへの移植時に適切に処理する必要があります(Busuttil and Klintmalm, 2015)。

腹腔鏡下肝切除術では、左三角間膜の剥離が手術視野の確保と肝臓の授動において重要な手技となります(Cherqui et al., 2016)。不適切な剥離は出血や横隔膜損傷のリスクを伴うため、慎重な手技が求められます(Wakabayashi et al., 2015)。また、肝腫瘍の局在診断や切除範囲の決定においても、左三角間膜の解剖学的位置関係を理解することが不可欠です(Makuuchi et al., 2002)。

病理学的重要性

左三角間膜の周囲には横隔膜下腔があり、この部位に膿瘍や血腫が形成されることがあるため、画像診断において注意すべき解剖学的ランドマークでもあります(Meyers, 2015)。稀に先天的な形成異常があり、これが肝臓の可動性増加(遊走肝)の原因となることもあります(Tirkes et al., 2012)。

CTやMRIによる画像診断では、左三角間膜の肥厚や造影効果の増強が腹膜炎や炎症性疾患の指標となることがあります(Lee et al., 2017)。また、肝転移や腹膜播種の評価においても、左三角間膜周囲の異常所見は重要な診断的意義を持ちます(Coakley et al., 2002)。肝硬変患者では、門脈圧亢進に伴う側副血行路が左三角間膜内に発達することがあり、これが術中出血のリスク因子となります(de Franchis et al., 2015)。

参考文献