大網 Omentum majus

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J0717 (腹部内臓:前方からの図)

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J0718 (小腸:正面からの図)

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J0719 (腸間膜の屈曲:前方から見た図)

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J0720 (大腸と腸間膜の根:前方からの図)

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J0721 (小網:前方からの図)

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J0723 (肝臓を引き上げたときの網嚢への入口)

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J0724 (十二指腸空腸陥凹、前方からの図)

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J0727 (男性の正中矢状断での腹膜の経過:赤色、やや模式的に示している)

定義と基本構造

大網は、胃の大弯から腹腔内に垂れ下がる腹膜の二重葉構造であり、形態的にはエプロンのように腸管の表面を覆っています。この構造は発生学的に胃後壁の背側間膜が折り返して形成され、横行結腸と結腸間膜に二次的に癒着します。大網は豊富な脂肪組織を含み、成人では厚さ1〜3mm程度ですが、個人差や肥満度によって大きく異なります。

解剖学的構成

解剖学的に大網は4つの層で構成されています:胃から下降する前葉、上方に折り返す後葉、横行結腸間膜の前葉と後葉です。大網は通常、横行結腸を越えて下腹部の小腸の迂回部前面まで広がり、時に骨盤腔内にまで達することがあります。腹膜腔の陥凹部(特に骨盤内の直腸膀胱窩や直腸子宮窩)に強く引き込まれることも多く、これが臨床的に重要となります。

血管支配

血管支配は豊富で、右胃大網動脈(右胃網動脈)と左胃大網動脈(左胃網動脈)によって栄養されています。これらは胃の大弯に沿って走行し、大網内で吻合して血管弓を形成します。静脈還流は門脈系に属し、最終的に肝門に集約されます。

解剖学的連続性

大網の左側部分は脾臓の脾門に接続し、この部分は胃脾間膜(gastrosplenic ligament)と呼ばれます。また、胃の大弯と横行結腸の間に広がる部分は胃結腸間膜(gastrocolic ligament)と呼ばれ、解剖学的に区別されます。

組織学的特徴

組織学的には、大網は単層扁平上皮細胞である中皮細胞に覆われており、内部には豊富な脂肪細胞(脂肪組織)が存在します。特徴的なのは多数のマクロファージ、リンパ球、肥満細胞などの免疫細胞が集積した乳斑(milky spots)が点在することで、これらは腹腔内の免疫監視機構として機能します。

臨床的意義

大網は「腹腔内の警察官」とも呼ばれ、腹腔内の炎症や感染に対して重要な役割を果たします。急性虫垂炎や憩室炎などの炎症性病変を被包化し、炎症の拡大を防止する機能があります。また、大網は高い可動性を持ち、腹腔内の様々な部位に到達可能なため、消化管穿孔などの緊急状態では穿孔部を覆い、内容物の漏出を最小限に抑える自然の防御機構として作用します。

外科的には大網充填術(omental patch)として胃十二指腸潰瘍穿孔の修復や、大網弁移植(omental flap)として胸部・腹部の死腔充填や血流供給に利用されます。一方で、悪性腫瘍の転移経路となることもあり、胃癌や大腸癌、卵巣癌などでは大網への転移(大網播種)が予後不良因子となります。

参考文献