
会陰縫線は、陰嚢放線と陰茎縫線の延長線上にあり、会陰の正中に位置する皮膚縫合線です。この構造は胎児期の尿生殖洞と肛門洞の閉鎖過程において、両側からの組織融合によって形成されます(Moore et al., 2018)。解剖学的には浅会陰筋膜の肥厚部である会陰体(会陰中心腱)の直上に位置し、肛門から陰嚢底部まで続く線状の隆起として観察されます(Standring, 2020)。
会陰縫線は会陰の矢状面上の正中線を走行し、前方は陰嚢縫線に、後方は肛門周囲皮膚に移行します(Netter, 2019)。この縫線は会陰浅層の筋膜構造と密接に関連しており、深部では会陰体(中心腱)と連続しています(Skandalakis et al., 2004)。会陰体は肛門挙筋、球海綿体筋、浅会陰横筋、外肛門括約筋などの筋群が交差する重要な結節点であり(Anderson et al., 2015)、会陰縫線はその表層マーカーとして機能します。
会陰の解剖学的区分において、会陰縫線は前方の尿生殖三角と後方の肛門三角の境界を示す重要な指標となります(Putz and Pabst, 2007)。この縫線の長さは個体差があり、成人男性では平均2〜4cmですが、体格や発育段階によって変動します(Hagens and Laumann, 2014)。
胎生期において、会陰縫線の形成は尿直腸中隔の発達と密接に関連しています。妊娠第4〜7週において、尿直腸中隔が総排泄腔を尿生殖洞と直腸に分割する過程で、両側からの外胚葉性組織が正中で融合し、会陰縫線の原基が形成されます(Sadler, 2019)。この融合過程の異常は、尿道下裂、会陰瘻、会陰正中囊胞などの先天奇形の原因となります(Baskin et al., 2018)。
分子生物学的研究により、この融合過程にはSonic hedgehog(Shh)、Fibroblast growth factor(FGF)、Bone morphogenetic protein(BMP)などのシグナル伝達経路が重要な役割を果たすことが明らかにされています(Miyagawa et al., 2009)。特にアンドロゲン受容体の発現が正常な男性型会陰形成に必須であり、これらのホルモンシグナルの異常は会陰縫線の形成不全を引き起こします(Suzuki et al., 2015)。
組織学的には真皮の緻密な結合組織の集合であり、皮膚表面では色素沈着が見られることが多く、淡褐色の線として識別できます(Ellis, 2006)。顕微鏡的には、表皮は重層扁平上皮で覆われ、真皮層では膠原線維が正中線に向かって収束する特徴的な配列を示します(Gosling et al., 2016)。
この部位には汗腺(アポクリン汗腺およびエクリン汗腺)と皮脂腺が豊富に分布しており、特に思春期以降はアポクリン汗腺の活動が活発化します(Standring, 2020)。皮脂腺の過剰分泌や毛包炎により毛嚢炎や膿瘍を形成することがあり、臨床的に重要な意義を持ちます(Habif, 2016)。また、この領域には豊富な神経終末(陰部神経の会陰枝)が分布しており、触覚および痛覚に対して高い感受性を示します(Drake et al., 2015)。
血管分布に関しては、会陰縫線部は浅会陰動脈および内陰部動脈の分枝から血液供給を受けており、静脈還流は内陰部静脈系を経由します(Moore et al., 2018)。リンパ排液は主に浅鼠径リンパ節へ流入するため、この領域の感染症や悪性腫瘍においてはリンパ節評価が重要となります(Standring, 2020)。
臨床的には、会陰部の手術(会陰切開術、会陰形成術、直腸脱根治術など)の際の重要な解剖学的指標となります(Netter, 2019)。産科領域では、分娩時の会陰切開術において、会陰縫線を基準に正中切開または正中側方切開が選択されます(Cunningham et al., 2018)。正中切開は会陰縫線に沿って行われるため、解剖学的な組織層の理解が合併症予防に重要です。
泌尿器科領域では、尿道下裂修復術、尿道形成術、陰嚢水腫根治術などにおいて会陰縫線の位置関係が手術計画の基準となります(Snodgrass and Bush, 2016)。また、前立腺癌に対する会陰式前立腺全摘除術では、会陰縫線を中心とした切開線が標準的アプローチとなっています(Walsh et al., 2007)。
会陰縫線部に生じる囊胞(正中縫線囊胞)や瘻孔は、先天的な尿道下裂や会陰瘻の形成不全に関連していることがあります(Baskin et al., 2018)。これらの病変はMRIやCTによる画像診断で評価され、必要に応じて外科的切除が行われます(Hagens and Laumann, 2014)。