陰茎体 Corpus penis

J788.png

J0788 (陰茎、球海綿体筋および筋膜と皮膚の一部を除去:下方からの図)

陰茎体は男性生殖器の主要部分であり、近位の陰茎根(Radix penis)と遠位の亀頭(Glans penis)の間に位置している。解剖学的には3つの海綿体、すなわち2つの陰茎海綿体(Corpus cavernosum penis)と1つの尿道海綿体(Corpus spongiosum penis)から構成されている(Gray and Carter, 2021; Standring, 2020)。

解剖学的構造

陰茎海綿体

陰茎海綿体(Corpora cavernosa penis)は陰茎背側に左右対称に並ぶ一対の円柱状構造物である。各海綿体は豊富な血管腔(lacunar spaces)と平滑筋線維から構成される勃起組織であり、性的刺激により副交感神経が活性化されると、らせん動脈(helicine arteries)が拡張して血管腔内に血液が流入する(Nehra et al., 2022)。この血液充満により陰茎の硬化と伸長が生じ、勃起状態が形成される(Burnett, 2021)。

両陰茎海綿体は強固な結合組織性の白膜(Tunica albuginea)に包まれており、この白膜は主にI型コラーゲン線維から構成され、厚さは約2mmである(Dean and Lue, 2005)。白膜の内層は円周方向に、外層は縦方向に走行する二層構造を呈し、勃起時の内圧に対する耐性を提供している(Hsu et al., 2004)。左右の陰茎海綿体は陰茎中隔(Septum penis)によって分離されているが、この中隔は多数の小孔を有する不完全な構造であり、両側の海綿体間で血液の交通が可能である(Standring, 2020; Moore et al., 2022)。

陰茎海綿体の近位端は左右に分岐して陰茎脚(Crus penis)を形成し、それぞれ恥骨下枝に付着する。この付着部には坐骨海綿体筋(Musculus ischiocavernosus)が覆い、勃起の維持に寄与している(Federative Committee on Anatomical Terminology, 1998)。

尿道海綿体

尿道海綿体(Corpus spongiosum penis)は陰茎腹側正中に位置する単一の円柱状構造物であり、内部に尿道(Urethra masculina)が通過する。近位端は球部尿道海綿体(Bulbus penis)として拡大し、球海綿体筋(Musculus bulbospongiosus)に覆われている。遠位端は著しく拡大して亀頭(Glans penis)を形成し、陰茎海綿体の先端を帽子状に覆っている(Gray and Carter, 2021)。

尿道海綿体を包む白膜は陰茎海綿体の白膜よりも薄く、より多くの弾性線維を含んでいる(Bitsch et al., 1990)。この構造的特徴により、尿道海綿体は勃起時に陰茎海綿体ほど硬化せず、比較的柔軟性を保つ。この解剖学的特性は射精時および排尿時に尿道の開存性を維持する上で重要であり、尿道の過度な圧迫を防いでいる(Lue, 2000; Moore et al., 2022)。

血管支配と神経支配

陰茎体への主要な動脈血供給は内陰部動脈(Arteria pudenda interna)の枝である陰茎動脈(Arteria penis)から行われる。陰茎動脈は3つの主要分枝に分かれる:(1)海綿体動脈(Arteria cavernosa)は陰茎海綿体内を走行し、らせん動脈を介して血管腔に開口する、(2)陰茎背動脈(Arteria dorsalis penis)は陰茎背側を走行し、主に白膜と亀頭に分布する、(3)球部尿道動脈(Arteria bulbi penis)は尿道海綿体に分布する(Breza et al., 1989; Nehra et al., 2022)。

静脈還流は陰茎海綿体からの深陰茎背静脈(Vena dorsalis profunda penis)と尿道海綿体からの浅陰茎背静脈(Vena dorsalis superficialis penis)を介して行われる。勃起時には、海綿体内の平滑筋弛緩と血管腔の拡張により、白膜下の導出静脈が圧迫され、静脈還流が減少する。このメカニズムは勃起の維持に不可欠である(Lue, 2000; Dean and Lue, 2005)。

神経支配は体性神経と自律神経の両方から行われる。陰茎背神経(Nervus dorsalis penis)は陰部神経(Nervus pudendus)の枝であり、陰茎皮膚および亀頭の感覚を担う。勃起機能には骨盤神経叢からの副交感神経線維(海綿体神経、Nervi cavernosi)が重要であり、一酸化窒素(NO)などの神経伝達物質を介して海綿体平滑筋の弛緩を誘導する(Burnett, 2021; Nehra et al., 2022)。

臨床的意義

勃起不全

勃起不全(Erectile dysfunction, ED)は満足な性行為を行うのに十分な勃起を達成または維持できない状態と定義される(NIH Consensus Conference, 1993)。EDの病因は血管性、神経性、内分泌性、心因性など多岐にわたるが、最も一般的なのは血管性EDである(Montorsi et al., 2003)。動脈硬化により海綿体動脈への血流が減少する動脈性EDと、静脈閉鎖機構の障害により勃起時の静脈還流が増加する静脈漏出性EDが代表的である(Lue, 2000)。治療としてはホスホジエステラーゼ5型(PDE5)阻害薬が第一選択となり、無効例では海綿体内注射療法、陰圧式勃起補助具、陰茎プロステーシス手術などが検討される(Burnett et al., 2018)。

持続勃起症