峡部(前立腺の)Isthmus prostatae

J784.png

J0784 (前立腺と精嚢、精管:前上方からの図)

J787.png

J0787 (男性の骨盤臓器の正中矢状断:左側からの右半分の図)

解剖学的特徴

前立腺の峡部(isthmus prostatae)は、尿道の前方に位置する解剖学的構造で、左右の前立腺葉を結合する中間部分である (McNeal, 1988)。この部位は前立腺の腹側に存在し、正中矢状断で観察すると尿道の前方を横断するように配置されており、前立腺全体を「馬蹄形」に見せる役割を担っている。峡部の発達には個人差があり、一部の男性では顕著であるが、他の男性では薄く不明瞭な場合もある (Brooks, 1991)。

組織学的には、峡部は主に平滑筋線維と線維性結合組織から構成され、腺組織はほとんど含まれていない (Ayala et al., 1989)。この組織構成は、前立腺の他の領域(特に末梢帯や移行帯)とは対照的であり、これらの領域は豊富な腺組織を含んでいる。峡部の平滑筋線維は尿道括約筋機構と連続しており、尿禁制の維持に寄与していると考えられている (Myers, 1991)。

臨床的意義

臨床的に、前立腺肥大症(BPH)では主に移行帯が肥大するが、峡部も影響を受けることがあり、尿道の前方からの圧迫に寄与する可能性がある (Lepor, 2005)。特に中葉の肥大を伴う場合、峡部の肥厚は尿道閉塞症状の増悪因子となりうる。経直腸超音波検査(TRUS)や磁気共鳴画像法(MRI)による前立腺評価において、峡部の認識は前立腺の解剖学的構造の正確な理解と検査精度向上に寄与する (Coakley et al., 2003)。

前立腺全摘除術において、峡部は尿道との位置関係から手術手技上重要な構造である (Walsh and Donker, 1982)。峡部を適切に処理することは、術中の出血コントロール、尿道吻合の精度向上、および術後の尿禁制の保持に直接関わる。特に神経温存前立腺全摘除術では、峡部周囲の解剖学的理解が神経血管束の保存と機能温存に不可欠である (Walz et al., 2009)。

前立腺生検においても、峡部の理解は重要である。峡部は前立腺癌の発生頻度が比較的低い領域であるが、移行帯癌の評価や前立腺全体の腫瘍マッピングにおいて、この部位の認識は検体採取の完全性に寄与する (Iczkowski et al., 2005)。

血管分布と加齢変化

峡部には前立腺動脈の枝、特に下膀胱動脈および陰部内動脈からの分枝が分布している (Villers et al., 1989)。これらの血管は尿道周囲の血管叢と吻合し、前立腺の血液供給ネットワークを形成している。手術時、特に前立腺全摘除術や経尿道的前立腺切除術(TURP)において、峡部周囲の血管損傷は著明な出血のリスクとなるため、血管解剖の理解が重要である (Clegg, 1955)。

加齢に伴い、前立腺峡部の厚さや密度には変化が生じる (Berry et al., 1984)。特に50歳以降、峡部を含む前立腺全体の線維筋性組織の増加や石灰化が観察されることがあり、これらの変化は画像診断所見の解釈に影響を与える。また、加齢による前立腺の構造的変化は尿路症状の発現や前立腺関連疾患のリスク評価において考慮すべき要素である (Roehrborn, 2008)。

参考文献