精嚢 Glandula vesiculosa
精嚢(Seminal gland/Seminal vesicle)は、男性生殖器系において重要な付属腺の一つで、射精液の主要成分を産生します(Gray et al., 2020)。その解剖学的特徴と臨床的意義は以下の通りです:
解剖学的特徴
- 位置:精管膨大部の外側下方に位置し、膀胱底後面と直腸前壁の間に存在します(Standring, 2021)。骨盤腹膜で覆われ、前立腺の上部後方に位置しています。
- 形態:細長い嚢状の腺で、表面は不規則な凹凸があり、多数の小葉に分かれています。実質は単一の管が折りたたまれて形成されています(Moore et al., 2019)。
- サイズ:長さ約3-5cm、幅1-2cm、厚さ約1cm、重さは約2gで、小指の先端ほどの大きさです。左右非対称の場合もあります(Netter, 2018)。
- 構造:管腔は複雑に折りたたまれ、内腔は不規則な形状です。壁は平滑筋層と粘膜層からなり、粘膜は分泌上皮で覆われています(Ross and Pawlina, 2022)。
- 血管支配:下膀胱動脈および中直腸動脈から血液供給を受け、対応する静脈に排出されます(Sinnatamby, 2020)。
- 神経支配:骨盤内臓神経叢(交感神経と副交感神経)から神経支配を受けます(Nolte, 2021)。
生理学的機能
- 分泌機能:精漿の約60-70%を産生し、フルクトース、プロスタグランジン、セメノゲリン、フィブリノゲン、ビタミンCなどを含む栄養豊富なアルカリ性の液体を分泌します(Barrett et al., 2019)。
- 精子活性化:分泌液中のフルクトースは精子のエネルギー源となり、プロスタグランジンは子宮頸管粘液の軟化に寄与します(Hall, 2021)。
- ホルモン依存性:男性ホルモン(テストステロン)に強く依存しており、思春期に急速に発達し、アンドロゲン欠乏時には萎縮します(Melmed et al., 2020)。
- 排出経路:精嚢管は精管膨大部と合流して射精管を形成し、前立腺部尿道に開口します。射精時には平滑筋の収縮により内容物が排出されます(Drake et al., 2018)。
臨床的意義
- 精嚢炎:細菌感染による炎症で、しばしば前立腺炎と併発し、血精液症や会陰部不快感の原因となります(Wein et al., 2021)。
- 精嚢嚢胞:先天性または後天性の嚢胞形成で、射精管閉塞を伴うことがあります(Tanagho and McAninch, 2020)。
- 精嚢腫瘍:稀ですが、良性および悪性腫瘍が発生することがあり、経直腸超音波検査やMRIで評価されます(Walsh et al., 2022)。
- 不妊症との関連:精嚢機能不全は精液の質に影響を与え、男性不妊の一因となる可能性があります(Schlegel et al., 2019)。
- 画像診断:経直腸超音波検査、CT、MRIによって評価され、特にMRIは精嚢病変の詳細な評価に有用です(Rifkin et al., 2020)。