
J0777 (精巣鞘膜(臓側板)を開いた後の右の精巣と精巣上体:外側からの図)

精巣上体体(Corpus epididymidis)は、精巣上体管が高度に弯曲して形成される構造で、精巣上体の中部に位置します(Moore et al., 2018)。解剖学的には、精巣上体頭部(caput epididymidis)と精巣上体尾部(cauda epididymidis)の間に存在し、精巣の後外側面に密着しています(Standring, 2020)。この部分は約40〜45cmの細い管が高度に折り畳まれ、約3〜4cmの長さに収まっています(Standring, 2020)。
組織学的には、精巣上体体の管腔は単層円柱上皮で覆われており、その上皮細胞は微絨毛(stereocilia)と呼ばれる長い不動毛を持ちます(Ross and Pawlina, 2016)。これらの微絨毛は吸収と分泌機能を担い、精子の成熟過程で重要な役割を果たします(Kierszenbaum and Tres, 2019)。管腔の周囲には平滑筋層が存在し、蠕動運動により精子の輸送を助けています(Kierszenbaum and Tres, 2019)。精巣上体体の上皮細胞は、アンドロゲン依存性であり、テストステロンとジヒドロテストステロン(DHT)によって調節されています(Sullivan and Mieusset, 2016)。
機能的には、精巣上体体は単なる通過経路ではなく、重要な生理学的役割を持ちます(Sullivan and Mieusset, 2016)。精巣で産生された未熟な精子はここを通過する際に成熟過程(maturation)を経て、運動能(motility)と受精能(fertilizing capacity)を獲得します(Sullivan and Mieusset, 2016)。精巣上体体内の特殊な微小環境(浸透圧、pH、イオン組成など)は精子の生存と機能維持に不可欠です(Cooper, 2011)。精巣上体液は、糖タンパク質、酵素、イオン、有機物質を含み、精子の代謝と保護に寄与しています(Cooper, 2011)。精子は精巣上体体を通過する約10〜14日間で成熟し、その間に表面タンパク質の修飾、細胞質滴(cytoplasmic droplet)の移動、DNA凝縮などの変化を経験します(Sullivan and Mieusset, 2016)。
臨床的には、精巣上体炎(epididymitis)の好発部位となり、細菌感染(大腸菌、クラミジア、淋菌など)により急性または慢性の炎症を起こすことがあります(Trojian et al., 2009)。急性精巣上体炎は陰嚢の疼痛、腫脹、発熱を伴い、尿道炎や前立腺炎と関連することが多いです(Trojian et al., 2009)。また、精巣上体管の閉塞(先天性または後天性)は閉塞性無精子症の原因となり、男性不妊の重要な要因です(Agarwal et al., 2021)。精巣上体体の機能障害は精子の質や運動性に直接影響し、受精能の低下をもたらします(Agarwal et al., 2021)。精巣上体体の触診は泌尿器科診察の重要な部分であり、腫脹や圧痛があれば炎症性疾患を疑います(Trojian et al., 2009)。超音波検査(Doppler法を含む)は、精巣上体炎、嚢胞、腫瘍の診断に有用です(Dogra et al., 2003)。精巣上体体には精巣上体嚢胞(spermatocele)や良性腫瘍(腺腫様腫瘍など)が発生することもあります(Dogra et al., 2003)。外傷や手術(精管切除術など)も精巣上体体の構造と機能に影響を与える可能性があります(Agarwal et al., 2021)。