
J0777 (精巣鞘膜(臓側板)を開いた後の右の精巣と精巣上体:外側からの図)

精巣上体洞(sinus epididymidis)は、精巣上体頭部(caput epididymidis)に位置する小さな盲嚢状の拡張部であり、精巣網(rete testis)から出た精巣輸出管(ductuli efferentes testis)が合流して精巣上体管(ductus epididymidis)へと移行する部位に形成される (Moore et al., 2018; Standring, 2020)。この構造は通常、精巣上体頭部の前外側面に位置し、精巣と精巣上体の境界部に認められる解剖学的ランドマークとして重要である (Standring, 2020)。
組織学的には、精巣上体洞は単層円柱上皮で内面が覆われており、この上皮細胞は繊毛を有している (Ross and Pawlina, 2016)。これらの繊毛は精巣網から送られてくる精子を精巣上体管へと輸送する上で重要な役割を果たす (Ross and Pawlina, 2016)。上皮細胞の間には基底細胞も観察され、上皮の再生と維持に関与していると考えられている (Hess, 2002)。さらに、上皮下には薄い平滑筋層が存在し、精子の移動を補助する蠕動運動に寄与している (Moore et al., 2018)。
精巣上体洞は臨床的にいくつかの病態と関連している。最も一般的なのは精巣上体嚢胞(epididymal cyst)の発生部位となることである (Dogra et al., 2003)。これらの嚢胞は精巣上体洞や精巣上体管の閉塞や拡張により形成され、通常は無症状であるが、大きくなると陰嚢内の違和感、腫瘤感、または圧痛を引き起こす可能性がある (Woodward et al., 2002)。精巣上体洞由来の嚢胞は超音波検査で容易に同定され、精巣上体頭部に境界明瞭な無エコー病変として描出される (Dogra et al., 2003)。
精巣上体炎(epididymitis)の際には、精巣上体洞を含む精巣上体全体が炎症過程に巻き込まれる (Trojian et al., 2009)。急性精巣上体炎では精巣上体の腫脹、圧痛、発赤が生じ、超音波検査では精巣上体の肥大と血流増加が認められる (Hamm et al., 2000)。慢性精巣上体炎では精巣上体洞周囲の線維化や癒着が生じることがあり、精子輸送の障害から男性不妊症の原因となりうる (Weidner et al., 1999)。
また、精巣上体洞は先天性精巣上体異常の診断においても重要である (Elder, 2002)。精巣上体の欠損や形成不全では、精巣上体洞が適切に形成されないことがあり、これは精巣との連続性の欠如を示唆する所見となる (Elder, 2002)。
発生学的には、精巣上体洞は中腎管(mesonephric duct、ウォルフ管 Wolffian duct)由来の構造である (Sadler, 2019)。胎生期において、中腎管の頭側部分が分化して精巣上体となり、その最も頭側の部分が精巣上体頭部および精巣上体洞を形成する (Moore and Persaud, 2020)。この過程は胎生8〜12週頃に起こり、テストステロンの作用により促進される (Sadler, 2019)。
精巣輸出管は中腎細管(mesonephric tubules)に由来し、精巣網と精巣上体洞をつなぐ構造として発達する (Moore and Persaud, 2020)。精巣上体洞における精巣輸出管と精巣上体管の適切な連結は、正常な精子輸送経路の確立に不可欠である (Jégou et al., 2002)。この発生過程の異常は、精巣上体の先天性欠損や精路の閉塞といった異常を引き起こし、閉塞性無精子症の原因となりうる (Elder, 2002)。