精巣 Testis
精巣(睾丸とも呼ばれる)は、男性の主要な性腺であり、解剖学的特徴と臨床的意義を持ちます (Moore et al., 2018):
解剖学的特徴
- 位置:陰嚢内に左右一対存在し、精巣上体とともに精索によって支持されています (Standring, 2020)
- 形態:楕円形で、縦軸が約4-5cm、横径が約2.5cm、前後径が約3cmの大きさです (Drake et al., 2019)
- 重量:成人男性では約15-19gですが、日本人では平均約8.4グラムとされています (村上, 2000)
- 左右差:一般的に左の精巣が右の精巣よりも1-2cm低い位置にあり、わずかに大きいです (Netter, 2018)
- 構造:
- 白膜(Tunica albuginea):結合組織性の厚い被膜で精巣を覆い、内部に中隔を送り込みます (Standring, 2020)
- 精巣縦隔(Mediastinum testis):白膜が後縁から内部に突出した肥厚部で、血管や輸出管が通過します (Drake et al., 2019)
- 精巣小葉(Lobuli testis):約250-300個あり、それぞれ1-3本の精細管を含みます (Moore et al., 2018)
- 精細管(Tubuli seminiferi):全長約60mに及ぶ曲精細管と直精細管からなり、精子形成の場です (Standring, 2020)
- 精巣網(Rete testis):直精細管が合流して形成される網状構造で、輸出管につながります (Drake et al., 2019)
- 血管支配:
- 動脈:精巣動脈(内精動脈)が腹部大動脈から直接分岐し、精索内を通って精巣に至ります (Netter, 2018)
- 静脈:精巣静脈叢を形成し、右側は下大静脈に、左側は左腎静脈に注ぎます(左側は直角に注ぐため静脈瘤を生じやすい) (Moore et al., 2018)
- 神経支配:交感神経系(T10-L1)の支配を受け、精巣神経叢を形成します (Standring, 2020)
- リンパ排導:腰リンパ節(L1-L3レベル)に排導されます (Drake et al., 2019)
機能的特徴
- 精子形成:セルトリ細胞を含む精細管内で精子が産生されます(1日あたり約1億個) (Sherwood, 2015)
- ホルモン分泌:間質のライディッヒ細胞がテストステロンを主とする男性ホルモンを分泌します (Hall, 2021)
臨床的意義
- 停留精巣:正常に下降せず腹腔内や鼠径管内に留まる先天異常で、不妊や精巣腫瘍のリスク増加と関連します (Kurpisz et al., 2021)
- 精索静脈瘤:精巣静脈の逆流による拡張で、精子の質低下や不妊の原因となります (Alsaikhan et al., 2016)
- 精巣捻転:精巣が精索を軸に回転し、血流が遮断される緊急疾患です(6時間以内の処置が必要) (Sharp et al., 2013)
- 精巣腫瘍:若年男性に多い悪性腫瘍で、セミノーマと非セミノーマに大別されます (Oosterhuis and Looijenga, 2019)
- 精巣炎・精巣上体炎:細菌感染やウイルス感染による炎症で、ムンプス(流行性耳下腺炎)による精巣炎は不妊の原因となることがあります (Trojian et al., 2009)