腟前庭 Vestibulum vaginae

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J0796 (女性の骨盤臓器、左側の骨盤壁を除去:左側からの図)

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J0797 (女性の骨盤臓器の正中矢状断面:左側からの右半分の図)

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J0800 (女性の外部性器:女性外陰部)

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J0806 (女性の会陰筋:下から見た図)

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J0973 (女性の会陰の神経:下方からの図)

解剖学的特徴

腟前庭は、発生学的に胎生期の尿生殖洞(sinus urogenitalis)の名残であり、左右の小陰唇(labia minora)の間に存在する楕円形の空間です (Moore et al., 2018)。この領域は外側から観察すると、小陰唇に囲まれた浅い陥凹として認められます。

開口構造物

解剖学的に重要な点として、腟前庭には以下の構造物が開口しています (Standring, 2020):

発生学

発生学的観点から見ると、尿生殖洞は胎生7週頃に尿直腸中隔(septum urorectale)の発達により排泄腔(cloaca)の腹側部として形成されます (Schoenwolf et al., 2021)。この尿生殖洞からは男女両方の膀胱下部、男性では尿道前立腺部、女性では腟前庭が発生します。腟下部の一部も尿生殖洞由来とされています。

臨床的意義

臨床的意義として、大前庭腺(Bartholin腺)は感染によりバルトリン腺炎やバルトリン腺嚢胞を形成することがあります (Omole et al., 2019)。これらは女性外陰部の最も一般的な嚢胞性病変で、導管の閉塞により発生します。また、腟前庭は性交時の解剖学的接点となるため、性感染症の初期病変部位となることも多く、臨床的な観察が重要な領域です。前庭の神経支配は会陰神経(陰部神経の枝)によってなされ、この領域の疼痛(前庭痛)は外陰部痛の一種として婦人科診療上重要です (Goldstein et al., 2016)。

血管支配と神経支配

腟前庭の動脈血供給は主に内陰部動脈(arteria pudenda interna)の枝である会陰動脈(arteria perinealis)と腟動脈(arteria vaginalis)から受けています (Netter, 2018)。これらの血管は豊富な血管網を形成し、特に大前庭腺周囲には密な血管叢が存在します。静脈還流は同名の静脈を経て内腸骨静脈に流入します (Standring, 2020)。

神経支配については、陰部神経(nervus pudendus)の枝である会陰神経(nervus perinealis)が体性感覚を担当し、触覚、圧覚、痛覚を伝達します (Moore et al., 2018)。この領域は非常に感覚が鋭敏であり、痛覚閾値が低いことが知られています。

組織学的特徴

組織学的には、腟前庭は重層扁平上皮(stratified squamous epithelium)で被覆されており、角化は認められません (Ross and Pawlina, 2020)。小前庭腺は粘液を分泌する単管状腺であり、大前庭腺(Bartholin腺)は複管状腺で粘液性の分泌物を産生し、性的興奮時に分泌が亢進して腟口の潤滑を助けます (Mescher, 2021)。上皮下の固有層には豊富な血管網と神経終末が存在します。

参考文献